計画研究
第一原理電子状態計算を活用して、π電子系分子の構造機能相関に関する解析手法の開発と応用を行った。解析手法としては、昨年度分子の硬さ・柔らかさを定量的に評価する計算アルゴリズムを発展した新たな手法を考案した。従来の手法では、分子圧縮の方向に異方性があったが、等方的な圧縮ができるように圧縮プローブを変える方法を提案した。また、数値計算の速度を大幅に改善する工夫も行った。電子機能の解析に関する解析手法としては、π電子系ホール輸送材料のホール移動度と電子的記述子の相関に関する統計解析を行い、ホール移動度を予測する数式を導出する電子状態インフォマティクス手法を確立した。加えて、π電子系分子がタンパク質内部に捕獲されたドッキング構造の幾何学的特徴に関する粗視化表現手法を考案し、様々なドッキング構造の類似性を評価する新たな手法も開発した。これは新たな医療薬の開発に適用できると思われるが、多孔性材料や超分子によるホストゲスト化学における分子認識の解析にも有用であると思われる。解析としては、本新学術領域内の他の実験研究者と共同研究を行い、彼らが見出したπ電子系分子の構造機能相関を、電子論的立場で解明する研究を行った。具体的には、特異な幾何構造を有する導電性高分子の光学特性、特殊な有機ホウ素化合物の構造と結合性・電子状態の関係、高度に捻れたπ電子系分子の電子状態と光学特性の相関、高度なネットワーク構造を有する高分子材料の発光特性、に関する計算化学研究を実施した。
2: おおむね順調に進展している
電子状態計算をベースにπ電子系物質の構造機能相関を解析する3つの新しいアルゴリズムを開発し、π造形科学を展開するツールを拡充することができた。また領域内共同研究も着実に実行し、成果に結びつけることができた、
構造機能相関を解析する手法についてはいくつか整備を進められており、既存の技術も活用すれば様々な解析が可能になった。しかし、物質そのものを設計・提案する計算技術までは開発できていない。これまで行ってきた研究事例での様々な経験も踏まえ、今後、新たなπ電子系物質の設計・提案につなげる計算技術を開発したい。そのために、H29年度は、数万個のπ電子系分子のデータベースを構築するとともに、その利活用技術を開発したい。また、領域内の共同研究として前年度実施したプロジェクトをさらに発展させるとともに、それらから得た着想に基づいた分子設計と機能解析も行う。さらには、実際の材料に関する数値解析結果に基づいて、π造形科学の基盤となる理論的概念の体系化に努める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (9件) 備考 (1件)
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