研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
26102016
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
佐々木 成朗 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (40360862)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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キーワード | 表面・界面物性 / ナノトライボロジー / 超潤滑 / 分子機械 / 分子シミュレーション / グラフェン / フラーレン / バッキーボウル |
研究実績の概要 |
平成26年度は下記のπ造形分子機械の研究を進めた。 (1) グラフェンとフラーレンC60を積層させて形成したラメラ構造、(グラフェン)2/C60/(グラフェン)2界面系のナノ力学応答を調べた。外部から与える機械刺激(入力)として、最外層グラフェンをスライド(並進移動)させて、最外層グラフェンが受ける水平力を計算したところ、異なるピーク値a, b, c(a < b < c)を有する3種類ののこぎり波形が現れた。更に最小ピーク値aはC60/グラフェン界面、中間ピーク値bはグラフェン/グラフェン界面、最大ピーク値cは両方の界面のスリップ直前の最大静止摩擦力に起因することが分かった。 (2) A01班 阪大櫻井研で合成に成功しているバッキーボウル構造を利用した潤滑システムの設計を目論んでいる。AFM探針/バッキーボウル/基板界面系を、剛体グラフェン/バッキーボウル/剛体グラフェン系でモデル化し、[0001]軸方向の圧縮・延伸を繰り返す構造最適化計算を行ったところ、六員環を中心とするバッキーボウルはグラフェンと比較的安定に吸着しながら圧縮されて平坦化し、延伸により再び元の形状を取り戻したが。より強く接しているグラフェン層の方向に引っ張られて凸形状を取る事が分かった。バッキーボウルを複数個剛体グラフェン基板上に並べた系ではバッキーボウル同士の凝集が起こるが、個々のバッキーボウルは基板の六員環格子の影響を受けて回転している事が分かった。 (3) グラファイトの一部に高圧をかけてアモルファス化すると、π的な性質とそうでない部分の二相系になると予想される。二相カーボン系のナノ力学を議論する予備的計算として、同じ4族の二相シリコン系のせん断破壊を議論したところ、摺動部では完全にシリコンの結晶異方性が消滅して等方な粘弾性的振る舞いをすることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)に関しては多層グラフェンからなるラメラ構造に与える機械刺激(最外層のスライド)の効果をグラフェンの層数を増やして系統的に進めつつあるため、革新的なエネルギー変換システムとしてのπ造形分子機械の設計に向けた準備は出来たものと考えられる。 (2)に関してはバッキーボウルを含む構造のナノ力学特性をどのように引き出すかの予備シミュレーションの段階である。より現実的な計算あるいは櫻井研より要求されるテーマを、2年目の平成27年度のブレーンストーミングによって明確にする必要がある。 (3)に関しては二相シリコン系のナノ力学を明らかにし、二相カーボン系のナノ力学を知る足掛かりとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度以降は下記の研究を進める。 (1) (グラフェン)2/C60/(グラフェン)2界面系のせん断に関して、初年度に得られた3種類の異なるピーク波形が生じる機構を全エネルギー解析などに基づいて原子・分子スケールで明らかにする。(グラフェン)3/C60/(グラフェン)3、(グラフェン)4/C60/(グラフェン)4界面系のように更に多層化したラメラ構造を考え、どの界面がスティック・スリップして超潤滑に寄与し、超潤滑を阻害するのか、その特徴が多層化に伴いどのように変化するのかを議論する。また最外層グラフェンをスライドさせる方向を変化させて、本系の摩擦力の異方性を調べ、超潤滑に寄与する界面がどのように変化するのかを調べる。このように多層構造を有する複合分子機械の潤滑特性に関する知見を深める事は、外部から機械的刺激を与えた時、内部にどのような静的・動的構造変化が誘起されて、その結果分子機械がどのようなナノ力学特性、摩擦特性を有するのかを予測するケーススタディと考えられる。 (2) 単一のバッキーボウル、単一層のバッキーボウル系、二層以上あるいはバルクのバッキーボウル系のナノ力学特性を考える。特にAFM探針などで機械的な刺激(圧縮、延伸、せん断)を与えた時のナノ力学、潤滑特性を調べて、バッキーボウルの内部自由度(回転)とバッキーボウル系全体の重心運動の両方をカップルさせて効率の良い稼動性すなわち潤滑特性を引き出す方法を数値的に探索する。 (3) 圧力の高い箇所での固着・滑りを扱える精度の良い古典的ポテンシャル、第一原理法を用いた計算が必要となる。
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