研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
26102016
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
佐々木 成朗 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (40360862)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 表面・界面物性 / ナノトライボロジー / 摩擦 / 超潤滑 / フラーレン / バッキーボウル / 分子モーター / エネルギー散逸 |
研究実績の概要 |
(1) バッキーボウルを利用した潤滑システムやナノメカニカルデバイスの設計を目指して、グラフェンとバッキーボウルからなる界面系のシミュレーションを行った。先ず剛体グラフェン/単一バッキーボウル/剛体グラフェン系の[0001]軸方向の圧縮・延伸を繰り返す構造最適化計算を行った。六員環を中心とするバッキーボウルはグラフェンと比較的安定に吸着しながら圧縮されて平坦化し、延伸により再びその元の形状を取り戻したが、より強く接しているグラフェン層の動きに追随してその方向に引っ張られて凸形状を取る事が分かった。次に、グラフェン基板を特定の結晶軸方向にスライドさせて超潤滑特性を調べた所、荷重に依存して摩擦力がスパイク状の振る舞いを示す事を見出した。これはフラーレンC60のベアリング系とは著しく異なる結果であり、バッキーボウルのような双安定の機械構造を持つ炭素クラスターのようなパーツを封入する事で、局所的な接触面積を急激に変える事が出来る可能性を示唆している。 (2) 平成27年に提案したQCM(Quartz Crystal Microbalance:水晶振動子)- AFM(Atomic-Force Microscopy:原子間力顕微鏡)法の動摩擦検出メカニズムの現象論的モデルを提案した。グラファイトと同じ層状物質であるMoS2のエネルギー散逸を測定して、QCM振幅の逆数でプロットしたところ、ΓK方向のLAモード、ΓM方向のTAモードのフォノンに対応する分散曲線と非常に良く一致する関係が得られた。研究代表者は、一次元フォノンの伝搬を考える一次元質点系モデルを仮定し、各モードのスペクトロスコピーがどのように探針振幅に依存するのかを調べた。その結果、エネルギー散逸の探針振幅依存性を定性的に説明することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)に関しては、バッキーボウルの凹凸構造の反転と、荷重、圧縮距離との関係が明らかになりつつあり、π造形部品としての特性を記述出来る段階に近づきつつある。 (2)に関しては、トライボフォノンスペクトロスコピーにおけるAFM探針の振動振幅とエネルギー散逸との関係を一次元フォノンモデルを用いて説明した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は下記の研究を進める (1) スマネンなどのバッキーボウルを利用した潤滑システムやナノメカニカルデバイスの設計を目的とし、グラフェンとバッキーボウルからなる界面系のナノ力学シミュレーションを進める。バッキーボウル薄膜を剛体グラフェン系で圧縮して外力を加えた時、個々のバッキーボウルに生じる構造反転により、外力がした仕事がどのように貯蔵、放出されるのかを解明し、微小な力学エネルギーを有効利用するπ造形分子機械のナノ力学理論の構築を行う。 (2) 一次元質点系モデルを用いて、フォノン分散とエネルギー散逸との関係を理論的・数値的に調べると同時に、フォノンモード間のカップリングの効果がどのようにエネルギー散逸に影響を与えるかなどを議論し、トライボフォノンスペクトロスコピー(TPS)のエネルギー散逸検出のメカニズムを明らかにし、一般的な物理法則として公式化する。
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