研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
26102017
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
多田 朋史 東京工業大学, 元素戦略研究センター, 准教授 (40376512)
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研究分担者 |
南谷 英美 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (00457003)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 分子スピン / π伝導チャネル / 量子情報 / 励起状態 |
研究実績の概要 |
本研究は、π電子系分子の多彩な特性をデバイス構造の上でロバストに保持・観測し、微視的情報の集積体として利用するための基盤技術をπ造形科学の観点から確立するための理論的研究である。平成27年度は、1)分子スピンをπ伝導チャネル上に配置させることを想定し、如何にしてスピンが基盤や分子の熱的ゆらぎを受けない(受けにくい)状況を実現しうるか、2)基底三重項状態の分子探索、3)スピン自由度以外のロバストな自由度の新規提案、を行った。 1)導電性基板としては、昨年度から検討を続けているグラフェンベースのストライプ型基板を想定しているが、実験結果と対比させながら検討を行うため、一般的な金属基板に分子を配置させ、熱的ゆらぎを回避するコンセプトを検討した。その結果、スマネン分子誘導体(ヘテラスマネン)を用いることで、金属-分子間の化学結合に関与する軌道と、伝導軌道とを分離させられることを見出した。これにより、熱的ゆらぎは基板と直接結合している化学結合部に集中させ、分子スピンは伝導パス上に配置させることで、スピンのロバスト観測の可能性を見出した。2)基底三重項状態の分子探索としては、フラーレン型ホスト分子を用いることで基底三重項状態を実現しうる分子ユニットの検討を行った。基底三重項状態に加え、励起三重項状態も必要となるので、その状態を如何にして実現出来るかの検討に移っている。3)スピン自由度以外のロバストな自由度として、波動関数の対称性に起因する自由度が利用できることを見出した。この場合にもπ電子骨格と遷移金属等の局在スピンモーメントが必要になるが、分子スピンを直接観測するのではなく、スピン情報を伝導波動関数のトポロジー情報に転写することで、よりロバストな情報として取り出し得る、という新規な提案である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
π伝導チャネルの設計は合成プロセスも含めて検討中であるが、伝導性基板からの熱的ゆらぎを受けにくい分子ユニットのコンセプト自体は提案可能である。H27年度はこのコンセプトを具体的に打ち出し、実験結果と比較できる系について検討を開始した。一方、伝導電子を利用しない分子情報の読み出しであれば基板の伝導πチャネルは不要となるため、励起三重項状態からの発光を利用した具体的な分子設計に着手し、いくつかの分子ターゲットを選定することができた。励起三重項状態からの発光強度の定量的計算が次のステップとなる。また、スピン自由度以外のロバストな自由度として、波動関数の対称性に起因する自由度が利用できることを見出した。これにより、当初の計画よりも広範囲に分子集積システムの設計が可能となった。よって、当初の計画には含まれていなかった方向性が多く打ち出されているが、それらは当初の提案では課題実現が困難であると判断した上での新たな方向性であるため、課題を実現するための大きな前進と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
「1.スピン情報読み出しとして伝導電子を利用」 1-1:グラフェンナノワイヤーとBNワイヤーとのストライプ構造によるπ伝導チャネル生成に関して、その合成プロセスも含めたうえで必要となる精密構造の実現可能性について第一原理計算を用いて検討を継続する。1-2:基板等からの熱的ゆらぎを受けにくい分子ユニットのデザインコンセプトをより現実的なものとするため、有限温度の第一原理分子動力学計算と伝導計算とを併用し、分子設計をより精密に行う。 「2.スピン情報読み出しとして発光を利用」 励起三重項状態からの発光を利用した分子設計を継続して行う。とくに、フラーレン型ホスト分子を利用した分子ユニットでは、力学的負荷をかけることによる電子状態変調が利用出来る可能性があり、これらについて第一原理計算を用いて検討を行う。 「3.スピン以外の新自由度」 スピン情報を伝導波動関数のトポロジー情報に転写することで、よりロバストな情報として取り出し得ることを見出したが、より定量的な評価や分子設計を行うためには、電子状態を記述する上での強相関パラメータの算出が必須である。そこで、第一原理計算から低エネルギー励起を考慮した電子系スクリーニングの計算を実行し、強相関パラメータ算出技術の習得に移行した。
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