研究領域 | 宇宙の歴史をひもとく地下素粒子原子核研究 |
研究課題/領域番号 |
26104003
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岸本 忠史 大阪大学, 核物理研究センター, 教授 (90134808)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 二重ベータ崩壊 / ニュートリノ / カルシウム48 / 原子核実験 / 素粒子実験 |
研究実績の概要 |
現在の物質優勢の宇宙を説明するにはCP対称性の破れに加えて粒子数の保存則の破れが必要である。現時点で最有力と考えられている 説明は、レプトンにおける粒子数の保存則の破れが物質だけの宇宙を作ったというレプトジェネシスシナリオである。本研究は、レプトン数保存則の破れに対応するニュートリノのマヨラナ性を検証するものである。そのために、48Caのニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊(0νββ崩壊)の研究を推進する。 具体的には48 Ca同位体濃縮の実用化と、高分解能蛍光熱量検出器の開発を推進する。並行してCANDLES装置を用いて48Caの二重ベータ崩壊の観測を進めることで実験上の問題点を明らかにし、将来数meV領域でのマヨラナ性検証を視野に入れた世界をリードする0νββ崩壊観測実験へと成長することを目指す。 本年度は48Ca濃縮:新濃縮法の大型化に向けての開発研究、蛍光熱量検出器開発:熱量計の構築と熱量検出技術開発、CANDELSによる二重ベータ崩壊の観測、を進めた。 48Caの濃縮:自然存在比が0.19%と非常に低い48Caを2%以上に上げるための、電気泳動法を基礎とする新しい手法(MCCCE法)で濃縮度を高め、量を増やす開発研究を進めた。装置の改良とパラメーターの探索を進めた結果、再現性が高まり、濃縮度がほぼ100倍(存在比で15%)と目標をはるかに超える結果を得た。想定外に高い濃縮度なので測定値の確認をこれから進める。蛍光熱量検出器開発:CaF2結晶の低温での特性を調べるために韓国のグループの冷凍機システムで特性を調べた。熱と蛍光の両方を測定できることが示され、研究の可能性が明確になってきた。二重ベータ崩壊測定:建設した遮蔽システムで、γ線と中性子起源のバックグランドをほぼ2桁減少できた。二重ベータ崩壊の観測を進め、48Caで世界で一番良い感度を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の3つの研究項目について、それぞれ順調に進展している。特に濃縮に関しては当初の目標を遥かに超える濃縮度が得られた。 ・48Caの濃縮に関しては、電気泳動法を基礎にした新しい濃縮法(MCCCE法)で現実的な濃縮度を達成すべく装置の改良とパラメーター探索を進めた。簡単な装置で数倍という濃縮度が得られていたが、出たり出なかったりの再現性の無さに非常に苦しめられた。多くの工夫を行ったが、特に詳細な温度制御によって結果が安定する様になった。それにより、濃縮度を向上させるためのパラメーター探索も軌道に乗った。更に、導入したICP-MSの測定でフィードバックのペースも上がった。この結果本年初には10倍を超える濃縮度が達成できた。更に改良を重ね、最近100倍という驚異的な濃縮度が得られた。濃縮度は48/43比で測定している。クロスチェックにICP-MSに水素ガスを導入して48/40比を直接求めたところ、0.15であった(自然存在比0.0019)。どちらもほぼ100倍である。これは目標を遥かに上回る。ここまで高い濃縮度は更に別の測定を行い確認したい。 ・蛍光熱量検出器に関しては、CaF2結晶で温度変化とシンチレーション光を同時に測って粒子弁別が可能かを検証するために、計測系の完備した韓国のグループの冷凍機システムと超電導センサー(MMC)を用いて測定した。この結果CaF2結晶で温度変化と蛍光の両方が極低温で測れることを世界で初めて明らかにした。これによりCaF2結晶がボロメーターとして有用で、将来の発展性が高いことを示した。 ・CANDLES装置を用いた二重ベータ崩壊の研究は、構築した遮蔽が予定通りの性能を達成し、環境放射線のバックグランドがほぼ2桁下がったことを確認し、長期測定に入った。今での観測で48Caに関して世界で最も高い感度に達したことを確認した。この結果を纏める作業を始めた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で推進している3つの研究項目の今後の研究の推進方策は以下のとおりである。 ・48Caの濃縮に関しては、電気泳動法を基礎にするMCCCE法で100倍程の濃縮度が得られた。予定外に高い濃縮度が得られたので、更にもう少し追求し高い濃縮度を目指す。当初は濃縮度で10倍程度を目指しており、装置で得られる数倍の濃縮を多段にすることで高い濃縮度を得ることを考えていたが、現状の装置でその目標はクリアーし、その一桁上に届いた。後2~3倍行けば50%を超え始め、十分すぎる濃縮度が達成できる。濃縮度は実験の感度に直結し、他の実験の追従を許さない実験が実現出来る。なお、予定外に高い濃縮度だったので、その測定値を確認する作業も行う。続いて大量生産をすすめる。ICP質量分析器で多くのサンプルで 同位体比を測定し、パラメーターと装置の構造を決定していく。 ・蛍光熱量検出器に関しては、CaF2結晶のボロメーターとしての性能が韓国グループとの協力で明らかになったので、阪大で更なる研究を進める。このために希釈冷凍機を導入し、研究を加速する。エネルギー分解能のさらなる改善を、データ解析手法の開発とセンサー部分の材料開発の両面から進めていく。将来的な検出器の大型化についても、結晶の大型化、および検出器の多結晶化に取り組む。 ・二重ベータ崩壊測定は、長期間の観測を進めることで更に感度を向上させながら、将来の検出器に向けての問題点を探る。残された212Bi起源のバックグランドが我々の残されたバックグランドで、その低減を進める。これは解析法の開発に加えてCaF2結晶自体の低バックグランド化に取り組む。現在の結晶でもバックグランドの低いものがあるが、数が限られている。その理由を解明し、結晶を入れ替えることで更なる感度の向上を目指す。
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