研究領域 | 宇宙の歴史をひもとく地下素粒子原子核研究 |
研究課題/領域番号 |
26104004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸本 康宏 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (30374911)
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研究分担者 |
梁 炳守 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (10626055)
小川 洋 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (20374910)
小林 兼好 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (70466861)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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キーワード | 暗黒物質 |
研究実績の概要 |
(A)現在のXMASS実験装置の運転とデータの解析, (B)将来のXMASSを目指した開発・研究を平行して行った. (A)に関して:季節変動を用いた解析と事象再構成による解析と2本立てで行った.前者に関しては,8月に不慮の停電が生じ,その後,観測したシンチレーション光量の変動が見られた.調査の結果,XMASS検出器への不純物の混入に起因する事が分かった.季節変動解析では,安定性が重要であり,この変化による影響を系統的に取り扱う必要があり,この解析を進めている.現在では,このような事象の生じた原因が究明されており,対策も完了した.また解析では系統的扱いについてほぼ目処がついたところである.後者の事象再構成による解析では,現在のXMASS 約300日分のデータを用いて,100GeVの暗黒物質粒子に対して,弾性散乱の断面積が1.6x10^-43 cm2以下であることを公表した.さらに,非弾性弾性散乱では断面積が3.2x10^-36cm2以下,スピン相互作用の断面積は1.1x10^-37cm2 以下である事が分かった(いずれも50GeVの場合).また,Bosonic-Super WIMPsと呼ばれる暗黒物質に対し,地上実験で初めて制限を加えることに成功した. (B)に関して:表面バックグラウンドを抑制するためには,表面バックグラウンドから迷光を抑制することが必要であり,迷光削減策として導入予定のドーム型光電子増倍管が納入された.この効果を調べるため,詳細なモンテカルロシミュレーションを行い.その結果,このPMTで,表面バックグラウンドが解析時に10^-5削減可能である事が分かった.また,使用する各種材料内の放射性不純物のスクリーニングが行われ,放射線量を現在より小さく抑制することが可能との感触を得た. また,次期XMASSの構造の素案を作成し,それを元にモックアップを作成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
季節変動解析では,不慮の停電とその後の検出器の変化に対応したため,成果の報告が出来なかったが,現在では,検出器の安定運転のノウハウが逆に強化されており,長期的には遅れを取り戻せるものと考えている.他の解析,即ち,事象再構成による解析では,100GeV暗黒物質の断面積に対し制限を課した.殊に,Bosonic Super WIMPsの成果は,「全ての暗黒物質がVector Super-WIMPsである」という仮説を完全に否定し,Editor's Selectionに選ばれる等大きな成果であった. また,バックグラウンドの理解においては,顕微鏡撮像に基づいて光電子増倍管窓周辺の構造をシミュレーションに導入し,表面バックグラウンド事象の最も主要なものの正体を突き止めた.今後はこの成果を更に煮詰め,最終的な解析結果へと反映する大きな糸口をつかんだと言える. 将来のXMASS検出器の開発・研究では,導入予定の光電子増倍管のプロトタイプを作成した.メーカによる性能評価では「想像よりずっと良い」という回答を得ており,期待が高まる. また,この新型光電子増倍管を用いた場合のモンテカルロシミュレーションでは,バックグラウンド除去性能が確認されており,ゲルマニウム半導体検出器による放射性元素のスクリーニング結果と相まって,将来のXMASSで,大きくバックグラウンドを削減し,高感度の探索を行うことが出来るとの結果を得ている.昨年度終盤に計算機が納入されており,モンテカルロシミュレーションによる研究がより加速すると考えている. また,新規に超高感度アルファ線カウンタが購入されており,これを用いる事で,物質表面に付着する放射性元素の抑制に関する知見が,飛躍的に高まると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度も,昨年度同様,現在のXMASSの解析と次世代XMASSの開発・研究を平行して行う. 【現在のXMASSの解析】季節変動を用いた解析では,観測シンチレーション光量の変化を系統的に取り扱った結果を報告する.不純物によるシンチレーション光量への対応は,既に対策済みであり,現在そのデータを取得し続けている.対策の結果,観測シンチレーション光量は高い位置で安定しており,より低エネルギーの事象を解析閾値に設定することで,より高感度の観測を行う. 事象再構成による解析では,シミュレーションを通じて完全なバックグラウンドを進める.暗黒物質以外でも,二重陽電子捕獲事象事象の探索,Hiden光子の探索等,低バックグラウンド環境を活かし,多くの物理を対象に探索を進める. 【次世代XMASSの開発・研究】納品された光電子増倍管プロトタイプの性能評価を遂行する.この性能評価に平行して,光電子増倍管材料の放射性元素スクリーニングを継続する.これらを元に,今年度も再度,光電子増倍管の試作を行う.この製品が最終的な物品として,次世代XMASSの実用となることを目標とする. 導入された新規の計算機の計算能力を武器に,モンテカルロシミュレーションによって,次世代XMASSの構造を決定する.ここでは,光電子増倍管の死角となる構造を詳細に導入し,表面のバックグラウンド事象が信号事象として混入する割合を最小限にとどめる事とする. 今年度は新たに,アルファ線カウンタを用いて表面に放射性不純物,特にラドンとその娘各種が付着するメカニズムについての研究を本格化する.表面電位と湿度のコントロールが鍵を握ると考えられるため,それらの効果を定量的に評価し,その結果を最終的に,どのようにすれば表面放射線が抑制できるかという処方箋を書くことを目標とする.
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