研究領域 | 宇宙の歴史をひもとく地下素粒子原子核研究 |
研究課題/領域番号 |
26104004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸本 康宏 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (30374911)
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研究分担者 |
梁 炳守 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (10626055)
小川 洋 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (20374910)
小林 兼好 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (70466861)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 極低放射能環境 |
研究実績の概要 |
暗黒物質探索では,DAMA/LIBRA実験が発見を主張し,別の実験ではそれが否定されている質量領域に対して,XMASS実験がその領域のほとんどを排除することに成功した.DAMA/LIBRA実験は暗黒物質の季節変動事象を主張していたが,XMASS実験は「季節変動がみえない」ことを確認した.これは,DAMA/LIBRAを上回る統計量を持って,世界で始めて検証したと言う意味で,高い意義を持っている. また,XMASS実験では,キセノンの二重電子捕獲事象を探索し,これまでの寿命を2倍以上上回る,4.7×10の21乗年(Xe124)の下限値を設定した.二重ベータ崩壊に比べて二重電子捕獲の研究は,信号エネルギーが小さいことから,これまで進展が無かった.XMASSによって,二重電子捕獲についての研究が進められる事が分かったことは,極低バックグラウンド下の大型検出器の可能性を示したものであることを協調したい. 極低バックグラウンド技術に関しても,大きな進展があった.1つは新開発の3インチ凸型光電子増倍管が,低温特性,時間応答性等,低バックグラウンド化など当初の予想を上回る性能を示した点である.もう1つは,これまで極低バックグラウンド環境下で「最も低バックグラウンド」と考えられていた無酸素銅中のウラン,トリウムの定量に成功したことである.これは新規に導入した,超低バックグラウンドのアルファ線検出器によって実現した.この成果によって,今後は,無酸素銅のスクリーニングが可能となったばかりで無く,低バックグラウンド化の処方箋の開発とそれによる更なる低バックグラウンド化が展望されうる事となった.更に,現在のXMASS,次期XMASS共に,シミュレーションに詳細なジオメトリを導入することによって,バックグラウンドの源の理解とそれへの対処についての理解が大きく進展した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究業績の概要」で述べたように,暗黒物質発見を主張する「DAMA/LIBRA」のパラメータ領域の大部分を,彼らの主張の要である「季節変動」を用いて検証できた.この点は非常に意義が大きく,本研究の目的の1つはほぼ達成されたと言って良い.残りの領域も,既に蓄積済みの安定した高品位データ1年分,さらに低閾値化後のデータによって詳細に検証されることは間違い無い状況である.表面バックグラウンド事象を取り除いた解析による暗黒物質探索の結果も早期に公表したいと考えており,研究を進めている. 二重電子捕獲事象の探索の成果は,暗黒物質の探索ではないものの,これまでの上限値を大きく上回る感度での探索に成功した.更に,Hidden Photon 暗黒物質,太陽アクシオンなど新しい物理の探索の可能性を示したものであり,残りの期間でより良い成果を公表できるものと期待が高まる. 光電子増倍管の開発は予想を上回る出来であり,非常に順調である. また,これまで測定限界以下であった無酸素銅に対し,ウラン/トリウムの定量が可能となった点は,次期XMASSの開発で重要な意味を持つことは勿論,現在のXMASSの表面バックグラウンドの理解にも繋がるものであり,本研究にとって重要な意味を持つ.昨年度末に導入した高感度ゲルマニウム半導体検出器と合わせて,今後,極低バックグラウンド化の研究が加速するものと期待される. 次期XMASSについてのデザインはモンテカルロシミュレーションに基づいて,信号と雑音の識別について詳しく調べており,有効体積を現在の5倍にまで高めることも可能であるとの結果が出るなど,詳細を詰めるべく1歩1歩確実に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
今後も2つの柱,即ち,現在のXMASS実験装置の安定的データ取得の継続と次期XMASS実現のための極低バックグラウンド技術の開発とそれに基づいた次期XMASSの計画推進を継続する. まず,1つ目に関しては,全体積のデータを用いた暗黒物質の季節変動事象の解析結果を公表したばかりであるが,現在更に1年以上の安定した高品位データが存在するため,そのデータを用いた解析結果を早急に発表する.また,昨年度後半から,トリガー閾値を下げることに成功しており,これを継続する.このトリガー閾値の変更によって,低質量の暗黒物質検出能力向上すると期待されるため,この低閾値ランを安定的に継続する.また,表面から放出されるバックグラウンド事象を,発光パターンを用いて取り除いた解析結果を早期に公表したい.このデータは暗黒物質探索としての意義は勿論のこと,これまでにない極低バックグラウンド環境という意味でも重要である.また,暗黒物質の探索に加え,二重電子捕獲事象探索,太陽アクシオン探索,Hidden Photon探索など,幅広く,新物理学を探求する. 次に2つ目に関してであるが,次期XMASSの最も重要な点は,表面バックグラウンド事象の除去であり,これを引き続き継続する.具体的には,この表面バックグラウンド対策のキーとなるのが新型の3インチ凸型光電子増倍管であるが,これの低バックグラウンド化と性能評価が順調に進んでいる.この光電子増倍管の量産化とそれに伴う諸問題の炙り出し(例えば部品ロットによるバラツキなど)を進める.同時にこの光電子増倍管の性能を十二分に活かした検出器デザインをシミュレーションに基づいて決定する.特に,今までの研究で光電子増倍管の死角から生じる迷光が問題となることが分かっており,詳細なジオメトリを元にこの対策をとり,次期XMASSの高感度化を更に進める.
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