研究領域 | 3D活性サイト科学 |
研究課題/領域番号 |
26105002
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福村 知昭 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90333880)
|
研究分担者 |
内富 直隆 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20313562)
白方 祥 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (10196610)
成塚 重弥 名城大学, 理工学部, 教授 (80282680)
LIPPMAA Mikk 東京大学, 物性研究所, 准教授 (10334343)
|
研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
|
キーワード | 結晶成長 / 結晶工学 / エピタキシャル / MBE / スピンエレクトロニクス |
研究実績の概要 |
本計画研究班は様々な先端半導体・先端機能材料の試料作製を専門とするメンバーで構成され、3D活性サイトの構造評価に必要となる試料を提供し、機能の起源の解明や機能の改善につなげることが主な任務である。初年度は以下に挙げる薄膜試料のエピタキシャル成長を主に行った。①室温強磁性化合物半導体MnドープZnSnAs2、②化合物半導体太陽電池材料Cu(In,Ga)Se2、③LED材料ワイドギャップ半導体GaN、④可視光触媒酸化物材料RhドープSrTiO3、⑥非平衡薄膜成長によるFe3O4ナノピラミッド構造や負の価数を持つBi正方格子を含んだ層状酸化物Y2O2Bi等の新材料。これらのうち、不純物を希薄ドープした化合物は、ドーパントの周囲の3次元局所構造を可視化できる蛍光X線ホログラフィーにとって非常に適した試料で、その局所構造を解明することでそれらの化合物が持つ機能の詳細を調べることができる。 また、室温強磁性酸化物半導体のCoドープTiO2については、蛍光X線ホログラフィーを用いたルチル型CoドープTiO2の構造評価と第一原理計算により、TiO2中のCoサイト付近はバルク結晶構造(ルチル型)と異なり、酸素欠損を取り込んだ3次元ネットワーク(サブオキサイド構造)を形成していることが明らかになった。この構造は透過電子顕微鏡では観測されておらず、ドーパント付近の3次元局所構造を観測できる蛍光X線ホログラフィーの長所を示している。これまで、この物質の室温をはるかに超える約600 Kのキュリー温度は通常の理論の枠組みでは説明できなかったが、このサブオキサイド構造が高いキュリー温度の起源、すなわち大きな強磁性交換相互作用の源、である可能性があり、今後の進展が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、本学術領域研究のスタートアップのために、主に蛍光X線ホログラフィーや光電子ホログラフィー測定に適した遷移元素ドープ半導体を重点的に作製した。本計画研究班メンバーそれぞれの専門性を活かし、上述した①から⑥までの試料を作製済みで、試料作製や基礎物性に関する成果については一部論文を発表した。また、それらの試料は、評価班と連携することで概ね次年度からホログラフィー等による構造評価を始められる段階にある。 また、CoドープTiO2についてはすでに蛍光X線ホログラフィーにより、Co周辺の3次元局所構造を観測することができた。この物質の高温強磁性の起源について10年以上にわたり議論されてきたが、最近の有力な仮説は酸素欠損とCoが隣接していて強い交換相互作用を産み出すというものであった。しかしながら、今回初めて直接観測されたCo周辺のサブオキサイド構造は、バルクスケールでは元の結晶構造を保っているものの、Co周辺はバルクの構造とは異なる局所構造を取っているという驚くべき結果で、サブオキサイド構造が高温強磁性の起源である可能性を初めて提示するもので、大きなインパクトが予想される。透過電子顕微鏡でも観測できなかった局所構造を直接観測でき、構造モデルが明らかになった結果、第一原理計算による磁性の評価も可能になった。この結果は、ホログラフィーの手法の強力さをよく示している。局所構造を評価して、第一原理計算により物性・機能を計算する、というサイクルは、他の様々な機能性材料にも適用できるメソドロジーである。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度には評価班との連携による構造評価を主に計画している。以下にそれぞれの材料に関する計画を示す。①MnドープZnSnAs2の光電子ホログラフィーを用いたMn周辺の3次元局所構造の観測やX線円二色性分光による磁性の評価により、強磁性の起源を調べる。②Cu(In,Ga)Se2のGa、Cu、およびSeのKα線による蛍光X線ホログラフィーの構造評価を行う。③GaNの極性反転サンプルを作製し、極性反転のメカニズム解明に向けた構造評価を行う。また、a面およびc面配向の低転位GaNの転位付近の局所構造評価を行う。④RhドープSrTiO3のRh周辺の3次元局所構造を蛍光X線ホログラフィーで評価し、Rhの価数と局所構造が与える光触媒能への影響を調べる。⑤SrTaO2Nに関する研究はH27年度から公募研究となったため、本計画研究班から独立することとなった。⑥非平衡合成による新材料の創製では、各グループがそれぞれ独自の機能性材料を作製している。そのうち、初めてエピタキシャル薄膜化したBiが-2価の層状化合物Y2O2Bi、高い電気伝導性を持つ新物質のY酸化物、赤色発光材料であるEuドープGaNについては、蛍光X線ホログラフィーや透過電子顕微鏡による構造同定を計画している。 室温強磁性を示すアナターゼ型CoドープTiO2においても、バルク結晶構造と異なる構造が蛍光X線ホログラフィーにより観測された。アナターゼ型試料はルチル型試料に比べて、高い電気伝導性と大きな磁化を示すため、より重要な材料である。今後、計算科学を活用して3次元の局所構造を同定し、電子状態や磁性について計算を行うことで、強磁性発現のメカニズムを調べることを計画している。ほかにも、領域内の様々な分野のグループとの連携により、異物質の融合といった融合研究を推進していく予定である。
|