研究領域 | 3D活性サイト科学 |
研究課題/領域番号 |
26105002
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福村 知昭 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90333880)
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研究分担者 |
内富 直隆 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20313562)
白方 祥 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (10196610)
成塚 重弥 名城大学, 理工学部, 教授 (80282680)
Lippmaa Mikk 東京大学, 物性研究所, 准教授 (10334343)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 結晶成長 / 結晶工学 / エピタキシャル / MBE / 先端機能デバイス |
研究実績の概要 |
室温強磁性半導体CoドープTiO2の室温をはるかに超える約600 Kのキュリー温度は通常の理論の枠組みでは説明できず、室温強磁性の発現機構の解明が望まれている。酸素欠損を介したカチオン間の交換相互作用やスピノーダル分解による凝集構造が提案されているが、透過電子顕微鏡を用いてもそのような局所構造の直接観測に至っていない。ところが、蛍光X線ホログラフィーによるルチル構造CoドープTiO2の構造評価と第一原理計算により、TiO2中のCoサイト付近はルチル構造と異なり、酸素の配位が少ないサブオキサイド構造を形成していることがわかり、国際学術誌に論文発表した。同じく室温強磁性半導体であるMnドープZnSnAs2の母材料であるスファレライトZnSnAs2薄膜において、蛍光X線ホログラフィーによる局所構造観察により、As副格子が異常に大きく歪んでいることが明らかになった。この大きな格子歪みが磁性ドーパントであるマンガンの高ドープを可能としており、室温強磁性が発現していると考えられる。この成果も国際学術誌に論文発表した。3次元局所構造の観測のために、元素をドープしたさまざまな無機材料の作製を進めている。CIGS太陽電池材料として知られる化合物半導体Cu(In,Ga)Se2は組成によりバンドギャップが異なるが、バンドギャップは真性欠陥等に起因した局所構造にも影響を受けることがわかった。可視光光触媒RhドープSrTiO3薄膜の作製をおこない、蛍光X線ホログラフィーによる構造解析を進めている。また、新物質YOのエピタキシャル薄膜合成に成功し、この物質として初めてのX線吸収スペクトルの観測をおこなった。このように放射光分析のアクセスが非常によくなったことも、本領域の利点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画研究班で扱っている酸化物半導体や化合物半導体等はX線に対してダメージがないため、多くの試料で蛍光X線ホログラフィーの測定が可能であることがわかった。ルチル構造CoドープTiO2では、蛍光X線ホログラフィーと第一原理計算の共同作業によって実験と理論がサポートしあうことで、サブオキサイド構造の詳細を明らかにすることができた。また、ZnSnAs2でも、明瞭な原子像が得られることで、通常の構造解析では得られない局所構造の詳細を明らかにすることができた。これらの連携研究については、すでに論文も出版されており、研究の進捗状況も良好であるといえる。また現在、RhドープSrTiO3薄膜など様々な試料でホログラフィー測定の予備的結果が得られている。グラフェンやLaAlO3/SrTiO3界面についても、実際に作製を進めている。特に、後者については、作製した試料の構造評価を国際共同で進めており、光電子ホログラフィー測定も計画中である。研究開始当初は、蛍光X線ホログラフィーの測定後のデータ解析の進め方が確立されていなかったが、評価班および理論班の第一原理計算との連携も進むようになり、大幅に研究の効率が改善された。特に、CoドープTiO2の測定では、軽元素である酸素は検出できないため、CoとTiしか原子像に現れなかったが、第一原理計算で安定な酸素の位置を調べることで、構造を決定することができた。この方法論は、酸化物全般に対して適用可能であり、今後も活用できる。本計画研究班では、多くの半導体材料を扱っているが、それらの試料に対してホログラフィー手法による構造解析が有用であることがこの2年間でわかった。一方で、分野が異なっていて共同研究も散発的であった放射光の専門家と頻繁に会することで、放射光分析の共同研究の可能性が大幅に増した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度からの2年間で、本領域の他計画研究班、特に蛍光X線ホログラフィーや光電子ホログラフィー班との連携体制が構築されてきた。また、エピタキシャル薄膜と相性のよい表面・界面ホログラフィー班とも連携を開始している。以下を平成28年度の研究として計画している。ドーパント原子の局所構造と機能の関係を調べるために、(1)蛍光X線ホログラフィーによりサブオキサイドらしき構造が観測されたアナターゼ型CoドープTiO2におけるCoサイト付近の3次元原子構造の決定、およびサブオキサイド構造が高いキュリー温度に及ぼす影響の解明、(2)MnドープZnSnAs2において、第一原理計算による先に得られたAs周辺の構造歪や組成揺らぎが強磁性に及ぼす影響の解明。また、ドーパント原子の局所構造を調べるために、(3)太陽電池特性に影響を及ぼすCu-In-Se系の一連のCu欠損化合物の局所構造の蛍光X線ホログラフィーによる観察、(4)絶縁性のCドープGaN薄膜のC周辺の局所構造の光電子ホログラフィーによる観察、(5)赤色発光EuドープGaN薄膜のEu発光中心の局所構造の蛍光X線ホログラフィーによる観察、(6)異なる価数をもつRhドープSrTiO3のRh周辺の局所構造の蛍光X線・光電子ホログラフィーによる観察およびキャリアの光生成メカニズムの検討。界面構造と機能の関係を調べるために、(7)LaAlO3/SrTiO3ヘテロ界面構造が電子物性に及ぼす影響の検討、(8)析出法により作製したグラフェンのCTR散乱による界面構造の評価。また、酸化物単結晶上のフタロシアニン超薄膜の構造もCTR散乱で決定し、酸化物有機物界面の性質を吟味する。以上の研究を進め、機能と構造の解明や異物質の融合、そして3D活性サイトの高機能化への展開を検討していく。
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