研究領域 | 3D活性サイト科学 |
研究課題/領域番号 |
26105004
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
山田 容子 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 教授 (20372724)
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研究分担者 |
笠原 裕一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10511941)
久保園 芳博 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (80221935)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 有機半導体 / 有機ナノ結晶 / 界面制御 / 超伝導 / 電気二重層界面 |
研究実績の概要 |
【課題1】有機薄膜トランジスタ(OTFT)の電荷移動度は化合物の結晶構造に大きく依存する。通常結晶性薄膜は蒸着により作製されるが、簡便に大面積の成膜を行うためには適切な溶液プロセスの開発が必須である。山田らは、平滑は薄膜を作製するためにオクチル基を導入したNODMS-BPとそのCu錯体(NODMS-CuBP)を合成した。Dip-coat法で作製した膜はHerringbone構造を示し、そのOTFTにおける正孔キャリア移動度は、NODMS-BPで3.0 cm2 V-1 s-1, NODMS-CuBPで4.1 cm2 V-1 s-1と溶液プロセスで作製した薄膜としては高い値を示した。 【課題2】久保園らは金属原子を二次元層状物質やトポロジカル物質にドーピングすることによって、超伝導体を作製した。対象とした二次元層状物質やトポロジカル物質は、FeSe、FeSe0.5Te0.5などの鉄系超伝導体、Bi2Se3などのトポロジカル物質である。また、グラファイトや黒燐への金属原子ドーピングも行った。 【課題3】さらに、笠原らのグループで確立した分子線エピタキシー(MBE)法による希土類金属間化合物、いわゆる重い電子系化合物の薄膜作製技術を用いて、重い電子系d波超伝導体CeCoIn5を含む超格子の作製が可能となった。これを応用し、CeCoIn5と2種の通常金属YbCoIn5およびYbRhIn5を交互積層したトリコロール(三色)超格子CeCoIn5/YbCoIn5/YbRhIn5を作製した。超伝導特性として上部臨界磁場Hc2を詳細に調べると、スピン一重項/三重項混成効果の制御が可能となることが示されただけでなく、理論的に予言されていた高磁場超伝導相であるヘリカル超伝導相の存在を示唆するHc2の特異な増大を初めて観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
【課題1】山田らは塗布プロセスによる結晶性有機薄膜の構造制御で、1分子厚の制御に成功した。またエチニレン架橋ペンタセンダイマー(PenD)単結晶の4端子法による正孔移動度測定を吉信Gとの共同研究で行ったところ、Dip-coat法により作製した結晶性薄膜のOTFT特性と同等の値を示し、簡便なDip-coat法による高い電荷移動度を実現した。久保園は、ピロールを骨格に取り込んでいる新しい有機物質や、[10]フェナセンや[11]フェナセン)を使った薄膜ならびに単結晶FETデバイスを作製して、トランジスタ研究を行い、[10]フェナセン薄膜の電気二重層(EDL) FETにおいて移動度で2 cm2 V-1 s-1を達成した。この他、郷原教授G(A08班)、鷹野教授(A11班)、高橋教授(A03班)、フォグリ助教(H27年度公募班)との共同研究等を継続中である。 【課題2】久保園らはAgをBi2Se3のBiと部分的に置換したAgxBi2-xSe3への圧力印加によって超伝導相を発現させた。AgxBi2-xSe3の蛍光X線ホログラフィーから得たAg周りの局所構造から(林グループとの共同研究)、Ag原子がBi原子の形成する層に存在することが示されており、AgとBiの置換が確認された。この他、Bi2-xSbxTe3-ySeyの圧力誘起超伝導に関する研究を進めている。 【課題3】笠原らはCeCoIn5と2種の通常金属YbCoIn5およびYbRhIn5を交互積層したトリコロール(三色)超格子CeCoIn5/YbCoIn5/YbRhIn5を作製したが、これにより、強相関2次元超伝導体に空間反転対称性の破れを人工的に導入することが可能となる。空間反転対称性の破れた超伝導体では、従来の超伝導体とは異なりスピン一重項と三重項の対状態の混成が起こるなど、エキゾチックな超伝導状態が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
【課題1】昨年度に引き続き、結晶性有機薄膜の簡便な作製法の開発として、ディップコート法により異方性結晶薄膜作製可能な5, 15-置換ベンゾポルフィリンを系統的に合成し、領域内共同研究により薄膜構造と電荷移動度の置換基効果を検討する。公募班との共同研究により、光前駆体法による結晶性薄膜の成長過程を明らかにする。 【課題2】種々の元素でドーピングされたトポロジカル絶縁体の圧力誘起超伝導相の探索を行う。第一に、作製したトポロジカル絶縁体におけるドープ元素の占めるサイトを光電子ホログラフィーならびに蛍光X線ホログラフィーにより決定する。次に、圧力下でのキャリア濃度をホール効果によって決定するとともに、圧力下コンプトン散乱実験を試みる。これによって、圧力誘起超伝導相出現の引き金となる電子状態変化を探知する。なお、圧力下での蛍光X線ホログラフィーに関する実験に挑戦したいと考えている。 【課題3】昨年度に引き続き、電気二重層のCTR散乱によって同定された界面構造に基づいた電気二重層トランジスタデバイスによる機能探索を行う。系統的な界面構造の解明により、電子輸送、スピン輸送、超伝導、トポロジカル相に最適な界面制御手法を明らかにする。さらに超格子作製を行い、新奇超伝導状態の人工制御を行う。 最終年度として、以上の成果を総括し、今後の研究の方向性に関する新しい指針を提案する。
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