計画研究
ヘモグロビンに対しても蛍光X線ホログラフィーを適用し、原子像再生を試みてきた。しかしながら、ヘムの構造にα型とβ型があることや、それぞれユニットセルに8個の異なるサイトが存在することから、鮮明にヘムを再生するためには特殊なアルゴリズムを開発する必要がある。この点については、引き続き解析法の開発を進めていくが、今年度はユニットセル内にヘムが二つしか存在しないミオグロビンに着目し、蛍光X線ホログラムの測定を行った。ミオグロビンは、筋肉中で酸素貯蔵を担うタンパク質であり、分子中に鉄-ポルフィリン錯体であるヘムを持つため、原子像再生にヘムの対称性を利用することが可能である。ミオグロビンはヘモグロビンに比べ、結晶中に含まれる異なる配向の分子が少なく、かつ分子中のヘムの平面性も良い。このため、ヘム面での対称操作が有効に働き、鉄原子の第二近接原子近傍までの原子像が観測された。無機物質については、光触媒材料RhドープSrTiO3の蛍光X線ホログラフィー研究について取り組んできた。本試料は成膜時の条件によって、添加元素であるRhの価数を3+または4+に制御できる。触媒活性としてはRh3+の方が高いことも知られており、その局所構造の表面状態とバルク状態の違いに興味が持たれている。実験の結果、酸素サイト置換モデルとTiサイト置換モデルの二種類が提案された。Tiサイトモデルでは、Rh-Vo-Rhとした特殊な配置の可能性が高い。中性子線ホログラフィーについては、物質中のBやHなどの軽元素周辺の局所構造の3D観測を行える。ここでは、0.26%10BドープSiを用い、Bのγ線の強度測定を行うことによって、B周辺の局所構造を再生することに取り組んだ。原子像からは、ダイヤモンド構造が観測され、多くのBがSiと置換していることが明らかになった。これはSi中のB位置を実験的に決めた世界最初の結果と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
予定していた実験やデータ解析及び論文執筆は順調に進んでいる。
生体物質の蛍光X線ホログラフィーについては、ヘモグロビンのようにヘムが複数のサイトを有する試料に対しても、再生が行えるようにする。ここでは再生時に、特定の拘束条件を与える必要がある。また、光学活性系IIに対してホログラム測定を行うが、目的は、CaMn4クラスターにおけるMnの価数のコンフィグレーションの決定とする。ここでは、MnのK edgeを用いた価数による吸収端の違いを利用する。また、無機試料に対しては、超電導物質であるCaC6単結晶の測定を行い、相補的な手法である光電子ホログラフィーの結果と併せ、統一的な見解を得る。さらにトポロジカル絶縁体におけるドーパントの局所構造についても、蛍光X線ホログラフィーを用いて解析を進める。中性子線ホログラフィーについては、既に測定されたBドープSiのホログラムの解析を進めるとともに、BドープSiCなどの新しい試料についても測定を行う。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
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