研究領域 | 3D活性サイト科学 |
研究課題/領域番号 |
26105010
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森川 良忠 大阪大学, 工学研究科, 教授 (80358184)
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研究分担者 |
赤木 和人 東北大学, 材料科学高等研究所, 准教授 (50313119)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 第一原理 / 電子状態 / 密度汎関数理論 / グラフェン / スピントロニクス / 触媒 / 燃料電池 / X線損傷 |
研究実績の概要 |
本研究グループでは、第一原理シミュレーションを開発・駆使して、実験的には解明が難しいような原子レベルでの活性サイト構造やその構造が持つ機能を調べ、それらの物質の持つ性質を支配する要因を明らかにし、その知見を元により望ましい性質を持つ物質をデザインする指針を与えることを目指している。平成29年度はこれまでの研究をさらに発展させて研究を進めてきたので、それらの研究成果をまとめて報告する。(1) 第一原理計算、および、平均場近似によりキュリー温度を見積もり、強磁性発現メカニズムについて調査した。Zn(Sn,V)As2、Zn(Sn,Cr)As2及びZn(Sn,Mn)As2においてハーフメタリックで高スピン状態の強磁性状態となり高いキュリー温度を示すことがわかった。(2)グラフェン担持Ptクラスター触媒の構造と反応性。ジグザグエッジ、および、アームチェアエッジに結合したPt 原子の安定性について系統的に調べた。水素と炭素の化学ポテンシャルに応じてそれぞれの条件下で安定となる構造を見出した。(3)水溶媒中でのリガンドフリー鈴木宮浦クロスカップリング反応過程の解明。単原子Pdにはハロゲン・イオンが1個結合した状態が活性な触媒種であることを突き止めた。このことによって、臭化ベンゼンがPd触媒に酸化的付加する段階の活性化障壁が低くなり、これが極めて高い触媒回転数(Turn Over Number; TON)を実現している要因であることが明らかとなった。(4) BEDT-TTF系材料における「X線照射損傷の活性サイト」の解明。CuやBrといった重い元素ではなくCやNといった軽い元素の内殻励起が結合のつなぎ替えを伴う構造変化の蓄積につながるとい重要な知見が得られた。本年度、軟X線光源を用いてNの内殻だけを励起する実験班の協力を得て、実際に照射損傷の進行が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の概要でも述べたように本年度は研究が極めて順調に進んでおり、引き続き重要な結果が出つつある。特に、遷移金属ドープZnSnAs2希薄磁性半導体では、SnサイトにMnを選択的にドープする、あるいは、ZnサイトにVやCrを選択的にドープすると室温以上のキュリー温度が得られることを理論的に予測し、実験グループに物質合成を提案している。グラフェン担持Pt単原子触媒に関しても、実験と連携することにより、従来未解明であった高活性Ptの構造が明らかにされつつあり、今後、その反応性やより高性能な触媒開発に繋がる知見が得られつつある。 X線損傷メカニズムについても、理論的な提案を実験的に実証することができ、この研究における一つのマイルストーンを打ち立てたと言える。さらに、蛍光X線ホログラフィー法の原子像再生のための手法開発、特に「パーシステント・ホモロジー」に基づく画像データ解析や原子構造の符号化など、新しい主砲の試みも進みつつあり、今後さらに発展が期待される。このように各研究課題に関しては、極めて順調に進行しつつあり、最終年度に向けて、実験グループともさらに強力に連携して、研究を加速している。また、上に述べた他にも、vdW-DFによる鏡像力ポテンシャル状態(IPS)の研究, ナフタレン単分子吸着グラフェン上のIPS, フォーメート分解反応における振動励起, 二酸化炭素分子の銅表面上の吸着に関する研究, Si中にドープしたAsの局所構造の実験および理論的決定、などについて研究論文として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
上に述べたように、本研究計画は極めて順調に進んできており、今後も引続き実験グループや他の理論グループと緊密に連携しつつ、物質の局所構造解明とその機能発現機構の解明、さらにはより望ましい物質設計に向けて研究を加速していく。具体的に以下のような点に注力しつつ、進める。 遷移金属ドープZnSnAs2希薄磁性半導体に関しては、Mnなど遷移金属周りの局所構造と強磁性発現機構のさらなる詳細な解明を行う。グラフェン担持Ptクラスター触媒の構造に関しては、Ptの結合状態が解明されつつあるので、今後はこのPt原子の触媒反応性を明らかにし、局所構造と触媒反応性の関連に関して学理を確立し、より高性能な触媒の設計を目指す。 CoをドープしたTiO2の強磁性発現メカニズムの解明に関しては、第一原理計算で得られた波動関数から局在化ワニエ関数を経て交換相互作用パラメータ(J)を見積もる先進的な枠組みであるRESPACKパッケージを適用することとした。これらを踏まえ、提案された原子構造モデルが安定的に強磁性を発現しうるかについての検討を行い、高いキュリー温度を実現する物理的機構を解明し、新規希薄磁性半導体を設計する指針を与えることを目指す。蛍光X線ホログラフィー法への援用を目指した計算手法の開発と評価に関しては、蛍光X線ホログラフィー法などの3Dイメージングによる原子構造解析を助ける枠組みの構築を模索してきた。離散入力データの幾何学的特徴を定量的に抽出できる「パーシステント・ホモロジー」に基づく画像データや原子構造の符号化と、対称性や配位数といった束縛条件下でのランダム構造探索を併用することで、ゴーストの除去や軽元素の位置決めを行うものである。データ構造の類似度を定量的に評価する方法を試行するなどし、最終年度に向けてほぼ道具立てを揃えることができた。
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