計画研究
A02班の目的は、冥王代地球表層環境を再現する実験条件下で、アンモニア等の生命始原分子から、アミノ酸、核酸、脂肪酸等の生命構成分子、そして触媒機能をもつオリゴペプチドや自己複製機能をもつオリゴヌクレオチド等の誕生に至る、多段階の化学進化を連続的に実現することである。A01班の研究進展により、原始大陸のウラン鉱床に存在していたとされる自然原子炉及びそれが駆動する間欠泉環境が生命誕生場として有力視されるに至った。そこで、代表者・Cleavesと分担者・青野らは、東工大コバルト60放射線照射施設を利用し、ガンマ線をエネルギー源として生命構成分子を合成する実験を開始した。分担者・青野らは、間欠泉熱源温度を見積り、グリシン溶液を300℃以上で加熱すると、オリゴペプチドが高収率で得られること、その収率が水が蒸発して数十秒後にピークを迎えた後、減衰することを見出した。これは、溶液が高温部で短時間加熱され低温部へと流れる間欠泉環境で、効率よく重合が進行することを示唆する。分担者・車らは、脂肪酸ベシクル内で脂肪酸を合成することで自立的に成長・分裂する原始細胞膜を構築することを目指し、脂肪酸生合成に関わる10種の酵素を再構築することで脂肪酸の合成を試みた。分担者・矢野らは、鉱物表面とアミノ酸分子との吸着相互作用を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて単一分子スケールで定量分析した。AFM探針に修飾したリシン分子は、黄鉄鉱表面の欠陥部位に特異的に吸着することがわかった。分担者・北台らは、生命構成分子をその下流反応で定常的に生成できる炭酸固定経路である還元的クエン酸回路こそが原始的代謝系であったと推論し、これを非酵素的に再構築するべく、CO2の還元・結合が、アルカリ熱水噴気孔環境におけるpH勾配が作り出す電気化学ポテンシャルにより駆動したとの仮説を検証するための電気化学実験系を構築した。
2: おおむね順調に進展している
A02班の研究実施計画では、アンモニア等の生命始原分子から、アミノ酸、核酸、脂肪酸等の生命構成分子、そして触媒機能をもつオリゴペプチドや自己複製機能をもつオリゴヌクレオチド等の誕生に至る、多段階の化学進化を連続的に実現することを目標としている。H27年度から開始した自然原子炉を模した条件でのガンマ線照射実験により、アミノ酸や核酸などの生命構成分子の多くが合成されると見込まれる。間欠泉を模したアミノ酸加熱実験では、すでにオリゴペプチドが高収率で得られている。また、鉱物表面とアミノ酸分子との吸着相互作用を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて単一分子スケールで定量分析する方法を確立できたことにより、今後オリゴペプチドが金属イオンと結合して触媒機能をもつ過程、およびその特性の定量評価を行える見込みがある。さらに、電気化学実験により、炭酸固定経路である還元的クエン酸回路を非酵素的に再構築できれば、アミノ酸、核酸塩基、糖、脂肪酸等の生命構成分子をその下流反応で定常的に生成される過程を理解できる見込みがある。よって、本研究課題は、おおむね順調に進展していると言える。
H28年度以降の研究の推進方策は次の通りである。放射線エネルギーによる化学進化実験により、水への電離放射線照射から作り出される水和電子やラジカルのもつ高い反応性により、アミノ酸、核酸塩基、糖、脂肪酸等の生命構成分子を合成する。間欠泉リアクターによる化学進化実験により、鉱物の存在化で複数種のアミノ酸を重合させ、金属クラスタを内包するオリゴペプチドを形成し、炭酸固定反応等に対する触媒活性を評価する。脂肪酸ベシクル内での脂肪酸合成を目指し、本年度精製した酵素を試験管内で再構築し、それらを脂肪酸(オレイン酸)から構成される膜ベシクルに内包し、内部で脂肪酸を合成する。鉱物表面と有機化合物の相互作用力解析を進め、単結晶鉱物基板のステップエッジにおける特異的吸着相互作用を明らかにする。実験結果から吸着分子の吸着サイトを同定するために、第一原理計算を行う。原始的代謝系であったと推定される炭酸固定反応ネットワークを再現するための電気化学実験を行い、鉄やニッケルを含む硫化金属の触媒効果、水質の影響、付加電位や反応時間などの効果を系統的に評価する。計算機を用いたアプローチとして、未知の化合物が生成される化学反応を制約充足問題の解が探索される過程として表現する計算モデルを発展させ、有機電子論的を半定量的に組み込み、反応速度論を評価できる化学反応計算モデルを構築する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (19件) (うち国際共著 9件、 査読あり 19件、 オープンアクセス 8件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 12件、 招待講演 8件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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