研究領域 | 冥王代生命学の創成 |
研究課題/領域番号 |
26106003
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
クリーヴス ヘンダーソン 東京工業大学, 地球生命研究所, 特任准教授 (60723608)
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研究分担者 |
青野 真士 東京工業大学, 地球生命研究所, 特任准教授 (00391839)
車 兪徹 東京工業大学, 地球生命研究所, 特任准教授 (40508420)
北台 紀夫 東京工業大学, 地球生命研究所, 研究員 (80625723)
矢野 隆章 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (90600651)
藤島 皓介 東京工業大学, 地球生命研究所, 研究員 (00776411)
金井 昭夫 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 教授 (60260329)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 原始地球 / 鉱物触媒 / 化学進化 / 前生物的合成 |
研究実績の概要 |
A02班の研究目的は、冥王代地球において如何にして単純な分子が複雑な高次構造体に進化し、全生物共通祖先群の誕生に至ったかをボトムアップ的に再現し理解するための前生物的化学進化実験を行うことにある。H28年度は次のような研究成果を挙げることができた。1) 放射線エネルギーによる化学進化実験:自然原子炉間欠泉環境を模したガンマ線照射実験を行い、アセトニトリルと水からホルムアミドを合成した。また、シアン化水素を出発物質とし、糖およびヌクレオチドの前駆体が連続的に合成できることを示した。2) 間欠泉リアクターによるオリゴペプチド合成:間欠泉リアクターを用い、グリシン単量体からそれらのオリゴマーが生成すること確認した。また乾湿反復サイクルを繰り返し、オリゴマー生成の経時変化を検証した。3) 鉱物表面とアミノ酸単分子の相互作用力測定:原子間力顕微鏡を用いた吸着力測定を行い、アミノ酸分子とパイライトならびに酸化チタン表面の吸着相互作用に着目し、吸着力の結晶面方位依存性を測定した。また、昇温脱離分光法から、酸化チタン表面上でグリシンが二量体化することが確認された。4) 脂肪酸ベシクル内脂肪酸合成プロトコル開発:脂肪酸合成に関わる10種の酵素を精製し、試験管内で脂肪酸合成反応を行った。その結果、鎖長の脂肪酸の合成が確認された。また、脂肪酸合成酵素自体を試験管内で合成する試みも行った。5) 原始的炭酸固定代謝に関する電気化学実験:様々な硫化鉱物を触媒とした、CO2の電気的還元実験を行った。その結果、CO2のCOへの還元に対して有用な触媒能を持つ鉱物が確認された。6) 未知化学反応シミュレーションモデル: 未知の化合物が生成される化学反応を制約充足問題の解が探索される過程として表現する計算モデルを、求核付加反応などを表現できるよう発展させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A02班の研究目的は、アンモニア等の生命始原分子から、アミノ酸、ヌクレオチド、脂肪酸等の生命構成分子、そして原始的な触媒機能をもつオリゴペプチド(原始タンパク質)や自己複製機能をもつオリゴヌクレオチド(原始RNA/リボザイム)等の誕生に至る、多段階の化学進化を連続的に実現することである。H28年度の研究により、ガンマ線照射実験により糖およびヌクレオチドの前駆体が連続的に合成できることが示され、間欠泉リアクターにより効率的にオリゴペプチドを合成できる実験パラメータの最適化が可能となり、また、原始的なタンパク質の前駆体となる鉱物と結合するアミノ酸やオリゴペプチドなどの分子レベルの相互作用を測定できる実験系が構築されている。さらに、自然原子炉間欠泉環境で実現されたと我々が想定する原始的代謝ネットワークである解糖系の一部が、ガンマ線照射実験から得られた糖を出発物質として非酵素的に再現できれば、アミノ酸、脂肪酸などの生命構成分子をその下流反応で定常的に生成される過程を理解できる見込みがある。よって、本研究課題は、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は、次の研究目標の実現を目指す。1) 放射線エネルギーによる化学進化実験:照射実験により、ヌクレオチドをN2、アンモニア、シアン化水素等のガスから、鉱物の存在下で、ワンポットに近い実験条件で合成できることを示す。2) 間欠泉リアクターによるオリゴペプチド合成:より低濃度のアミノ酸溶液から、より低温の条件でオリゴマーが生成し得るか評価する。また、冥王代に存在していたと想定される種々の鉱物の存在化で、複数種のアミノ酸を重合させ、金属クラスタを内包するオリゴペプチドを形成する。3) 鉱物表面とアミノ酸単分子の相互作用力測定:原始地球を模した環境下で実験を行い、他種の鉱物とアミノ酸の吸着相互作用の解明を図る。また、鉱物表面におけるアミノ酸重合化の解明も図る。4) 原始酵素の起源を探るペプチド-鉱物相互作用実験:FeSをはじめとする冥王代に存在していたとされる様々な鉱物に対象を広げた比較解析を展開する。5) 遺伝暗号の起源を探る核酸-タンパク質複合体探索:バクテリアやアーキアだけでなく真核生物においても解析を行い、生物の三大ドメイン(バクテリア、アーキア、真核生物)での比較解析を行う。aaRS分子そのものに関しても分子進化解析を行い、原始のaaRSのアミノ酸配列を類推するような解析プログラムの構築を目指す。6) 脂肪酸ベシクル内での脂肪酸合成プロトコル開発:精製酵素により再構築した脂肪酸合成系の、反応時間の拡大と合成量増加を目指した、系の調整を行う。酵素濃度の最適化やsuv (small unilameller vesicle)の投入による酵素不活性化の抑制を検討する。7) 未知化学反応シミュレーションモデル:システムサイズ(原子の数)の増大とともに、計算に要求されるリソースがどのように成長するかを定量的に評価する。
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備考 |
受賞:青野真士 H28年度文部科学大臣表彰若手科学者賞 藤島皓介 WIRED Audi INNOVATION AWARD2016
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