研究領域 | 冥王代生命学の創成 |
研究課題/領域番号 |
26106004
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
鎌形 洋一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 研究部門付 (70356814)
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研究分担者 |
玉木 秀幸 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 主任研究員 (00421842)
西原 秀典 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (10450727)
鈴木 志野 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 高知コア研究所, 特任主任研究員 (10557002)
柿澤 茂行 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 主任研究員 (10588669)
黒川 顕 国立遺伝学研究所, 生命情報研究センター, 教授 (20343246)
大島 拓 富山県立大学, 工学部, 准教授 (50346318)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 冥王代 / 蛇紋岩熱水系 / 原始生命体 / 細菌 / 古細菌 / アルカリ環境 / メタゲノム / 共生 |
研究実績の概要 |
本計画研究班では、冥王代類似環境やその周辺熱水環境に棲息する微生物のゲノム解読、培養化、生理生態機能の解明を通じて、最終的に原始的な生命体のゲノムや生物機能の痕跡に迫ることを目的とする。白馬の蛇紋岩熱水系において引き続き大規模なサンプリングを行い、集積培養と多様性解析を実施した。大量の蛇紋岩熱水を液体のまま現位置で濃縮ろ過し、濃縮水を現位置で速やかにバイアルに接種し培養を開始した。試料の一部は昨年同様メタゲノム解析に供した。 メタゲノム解析の結果、OD1と共に白馬蛇紋岩熱水系には、系統的にも機能的にも、予想を超える多様で未知な酢酸生成微生物が棲息していることを明らかにした。とりわけ未培養Actinobacteria門細菌群(OPB41)や門レベルの未培養系統群(WS2候補門)に属する未知細菌がこれまでに知られていなかった極めてユニークな酢酸生成代謝能(グリシン還元型・ギ酸還元型酢酸生成経路)を有する可能性を明らかにした。こうした蛇紋岩熱水系の微生物群の特性について米国、ポルトガルなどに存在する同様の環境のメタゲノムとも比較解析を行い、いくつかの重要な共通性を得られつつある。酢酸生成に関わる経路は新たに発見した上述の経路とともにWood-Ljungdahl 経路が原始エネルギー代謝の中枢を担っていたと考えられており、実際白馬蛇紋岩熱水系から遺伝子が検出されている。本年度は約14,000の微生物ゲノムデータを用いてWood-Ljungdahl 経路の基幹酵素CODH/ACSの進化系統解析を進めた。その結果、CODH/ACSの構成遺伝子(サブユニット構造)が細菌型と古細菌型のキメラであることが明らかになった。人工生命体実験に関しては人工膜ベシクルを用いた人工細胞の構築が順次進みつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画研究班では、冥王代類似環境やその周辺熱水環境に棲息する微生物の培養化、ゲノム解読、生理生態機能の解明、さらには人工膜ベシクルを用いた人工細胞の構築を進めているところである。本研究で最も困難を極めているのは蛇紋岩熱水系微生物の純粋培養である。この環境は極度にアルカリであり、しかも溶存二酸化炭素、有機物の存在などがほとんど認められない。従って水素以外の目立ったエネルギー源が存在せず、しかも炭素源は非常に少ないという微生物培養にとって非常に厳しい条件であり、単純な実環境模倣ではそこに存在する微生物を容易に倍加させることはできないことがわかりつつある。実環境を模擬する以上の創意工夫が求められている段階である。一方、培養を経ないメタゲノム解析は、極微量のDNAからの高精度シークエンスによって多くのデータが得られつつある。白馬蛇紋岩熱水系のデータは世界に点在する熱水系との比較メタゲノム解析によって、明確な共通性を抽出可能な段階に至っている。エネルギー代謝に関しては、Wood-Ljungdahl 経路が原始エネルギー代謝の中枢を担っていたと考えられており、実際、本経路に関わる鍵酵素の遺伝子を見出すに至った。さらに、この遺伝子群が古細菌と細菌のキメラ構造をとっていること、加えて期待していた酵素活性を有していることを見出すに至った。人工生命体実験に関しては人工膜ベシクルを用いた人工細胞の構築が進みつつある。これは細胞壁を喪失したL型大腸菌を一つのモデルとして捉えるとともに、人工膜ベシクル内に膜構造形成に関わる遺伝子、最小生命体に必須な遺伝子群を導入した系を構築することによって試験管内でのベシクル分裂・生育系のデザインを目指している。これは極めて挑戦的な課題であり、その実現に向けて現在鋭意研究を進めている段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
蛇紋岩熱水系に存在する微生物群は何らかの形で共生系を構築している可能性、何らかの鉱物担体に担持されながら増殖しているであろうという作業仮説を設け、新たな培養手法を開発する予定である。これは本年度、主要構成微生物であるOD1にエネルギー代謝に関わる多くの遺伝子が見当たらないという知見に基づいている。メタゲノム解析については引き続き精緻なゲノム解析を推進し、蛇紋岩熱水系特有の機能遺伝子とは何か、を明らかにして行く予定である。とりわけ今年度の研究結果より従来から考えられていたWood-Ljungdahl 経路のみならず、その変形経路ならびにグリシンのような最も単純なアミノ酸から酢酸を生成する経路の存在を予想できたことから、これらの遺伝子が実際にそうした機能を有するか否かを生化学的に捉えることが非常に大きな発見に繋がると考えている。またWood-Ljungdahl 経路の鍵酵素の遺伝子を見出すことに成功し、さらに、この遺伝子群を発現させたところ、期待される酵素活性を有していたことから、その精緻な構造解析に向けた研究を加速化させたい。これまでにこれほどの強アルカリ環境下で活性を保有するCODH/ACSは全く知られていないからである。また、原初細胞においてどのような基本代謝が存在することによってエネルギー代謝ならびに細胞基本骨格を作るに至ったかについては、多くのゲノム解析データとバイオインフォマティックスを用いて解析を推進する予定である。これは人工生命体実験に欠かすことのできない情報となる。
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