研究領域 | 医用画像に基づく計算解剖学の多元化と高度知能化診断・治療への展開 |
研究課題/領域番号 |
26108003
|
研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
本谷 秀堅 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60282688)
|
研究分担者 |
増谷 佳孝 広島市立大学, 情報科学研究科, 教授 (20345193)
井宮 淳 千葉大学, 学内共同利用施設等, 教授 (10176505)
石川 博 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60381901)
奈良 高明 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (80353423)
松添 博 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90315177)
|
研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
|
キーワード | 医用画像処理 / 統計モデル / 非剛体位置合わせ / 情報幾何学 / グラフカット / 変分法 / 解剖学的ランドマーク / 逆問題 |
研究実績の概要 |
多元計算解剖モデルを構築する際に直面する数理的課題を明らかにした。まず医学的な対象を定める必要があったため、A01-2班(農工大・清水教授)ならびにA03-1班(九州大・橋爪教授)と協力し、研究対象とする画像モダリティと部位として、膵臓の病理顕微鏡画像とMR画像を選択した。膵臓癌の病理画像とMR画像の組は、人だけではなくマウスや豚などを含め多数の症例を九州大学(A03-1班)で収集することができる。膵臓癌の進行にともなう経時変化画像データや、顕微鏡とMRの画像の組を多数収集できることから、研究に適していると判断した。さらに膵臓癌を題材として多元計算解剖モデルを構築するための数理的課題を洗い出す作業をおこない、空間分解能の大きく異なる画像間の非剛体位置合わせが重要であることを確認した。A01-2班と議論を重ね、A01-1班は画像中の解剖構造を陽に記述するアプローチを採用し、A01-2班ではテクスチャを重視するアプローチを採用するなど、役割分担もおおよそ終えることができた。その上で、膵臓の病理顕微鏡画像より、間質や血管などの微細な解剖構造を陽に記述する手法の実装に着手した。また、多元計算解剖モデルを構築したり、その上で推論する際の数理基礎となる次に示す各項目について一定の成果を挙げることができた。すなわち、CT画像中の新たな特徴記述法の開発、マクロ解剖構造抽出のためのモデルの精緻化、解剖学的ランドマークの検出精度向上、グラフカットによる最適化に関わる理論の発展、変分法を利用する医用動画像解析法の開発、情報幾何に基づく統計理論の発展などの諸項目について成果を挙げることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の大きな目的の一つは、多元計算解剖モデルを構築するための対象臓器ならびに画像モダリティを決定するともに、その決定に沿って解決すべき数理上の課題を洗い出すことであった。対象決定に際しては、(1)複数のモダリティにより、経時変化を撮影できること、(2)できるだけ多くの症例のデータを収集できること、(3)臨床応用上も有意義な対象であること、が重要であった。これら条件を満たす対象として、マウスと豚の膵臓画像データの収集に着手できたことは重要な成果であった。ヒトの画像データだけでは、収集できる画像の枚数やモダリティに強い制約があるため、多元計算解剖モデルの構築法の開発や、その性能評価を充分におこなうことが容易ではなかった。マウスや豚など実験動物の画像データであれば、ヒトよりもデータ収集が容易であるため、精度評価しつつ基礎理論の開発を進めることができるようになる。
また、A01班内部で基礎数理の整備をおこなうアプローチや役割分担を相談し、その上で具体的な研究に着手できた点も重要な進捗であった。具体的には、解くべき大きな問題のひとつとして、2次元の病理顕微鏡画像を3次元MR画像へと位置合わせすることに焦点を当てた。これら画像を位置合わせすることにより初めて、マクロ構造とミクロ構造の統計的な相関の有無の解析も可能となる。ただし、研究成果はまだ出ておらず、この意味で当初の計画以上と評価することは出来ない。
研究統括面では、基礎数理面の研究をより強く推進するために、数学の解析分野の研究者を雇用した。当該研究者に多元計算解剖学の考え方をレクチャするとともに、当該研究者から曲面の非剛体位置合わせの数理についてレクチャを受ける機会を複数回設けることができた。これも当初の計画どおりである。
|
今後の研究の推進方策 |
豚・マウスの膵臓癌画像データを利用した多元計算解剖モデルの構築に着手する。特に、空間分解能の大きく異なる画像間の位置合わせ法を開発するとともに、その結果を利用して、マクロな解剖構造とミクロな解剖構造の統計的な相関関係を表現するモデルの構築を目指す。まず、モデル構築法の開発とその検証には豚やマウスの膵臓を撮影した画像群を利用し、次に、開発した手法をヒト画像データへと適用し、ヒトの臨床に応用可能な統計計算解剖モデルを構築する。
病理顕微鏡画像の空間分解能は数μメートルであり、一方のMR画像の空間分解能はサブミリメートルである。このように空間分解能の大きく異なる画像間の非剛体位置合わせは容易ではないが、この位置合わせをおこなわなければ、マクロな解剖構造とミクロな解剖構造の相関関係の有無などを解析できない。本研究では、膵臓の標本を数μメートルの間隔でスライスし撮影した顕微鏡画像群を利用する。これら顕微鏡画像群を互いに位置合わせしつつ積み重ねることにより、まず3次元の膵臓画像を再構成する。この再構成画像は、空間分解能数μメートルの高精細な画像となる。次に、この高精細3次元画像とMR画像とを非剛体位置合わせすることにより、顕微鏡画像とMR画像との位置合わせをおこない、マクロ構造とミクロ構造の対応付けをおこなう。顕微鏡画像間の位置合わせについては、血管など3次元解剖構造の滑らかさを陽に考慮する手法を開発することを目指す。また、顕微鏡画像とMR画像との位置合わせについては、顕微鏡画像からもMR画像からも抽出可能な解剖構造を自動的に検出するとともに、その構造を手掛かりとして位置合わせをおこなう手法の開発を目指す。このことにより、計算解剖モデルの空間軸への展開を実現したい。その上で更に、異なる時刻に撮影したMR画像や癌の蛍光画像などと組み合わせることにより、時間軸ならびに機能軸への展開を図る。
|