計画研究
地質サブグループの上部地殻班は三重県および愛媛県で中央構造線の調査を行った。その結果、昨年度以来発見されていた断層セグメント(0.5-1.0 km)、ジョグ(70 m)構造がより明確となったほか、微細構造解析から、断層コアを形成するカタクレーサイト帯(70 m)の構造発達には,割れ目の増加、細粒化、圧力溶解による片理形成の3つのステージが存在していると推察された。また、1つの断層露頭では、これまで活動時期により異なる運動方向が明らかになっていたが、今年度、運動方向の違いごとに変形温度条件が異なり、それに対応し鉱物種とその量比、破砕様式に違いがあることが明らかとなった。さらに、断層周辺での鉱物脈方位分布から、間隙流体圧比が不均一であったことが推察された。地震性高速変形班は2000年鳥取県西部地震の余震域周辺に露出する断層の調査を行い、1000本を超える断層を確認し余震域周辺では地質時代からの活発な断層活動が認められるが、断層の成熟度は低いことを明らかにした。また、2014年長野県神城断層地震が発生した白馬村から小谷村を踏査し、活断層露頭を記載した。下部地殻断層班は、ノルウェーおよび東南極トナー島下部地殻断層について、地震性高速すべりと関連する局所的な剪断帯の発達、およびそれに沿うCO2に富む流体の流入と変成作用および粒径依存型クリープを明らかにした。地震観測サブグループは断層深部形状観測装置の開発を完了した。また、発震機構解を用いて、中央構造線の九州延長部において応力場と剪断帯の関係のモデル化を進めた。さらには断層近傍の応力場擾乱から応力集中や絶対応力を推定する手法を開発した。
2: おおむね順調に進展している
地質サブグループの上部地殻班においては、初年度に調査を開始した中央構造線において、調査地域を広げるほか、さらに詳細な調査を行った。その結果、研究実績の概要に記したように、初年度に得た地質構造の解釈を確実にすることが出来た。また、室内における微細構造解析も順調に進み、断層帯発達の解釈に見通しをつけることが出来た。さらに、鉱物脈を用いた応力インバージョンと間隙流体圧比の定量化の解析はおおむね順調であるが、形成時期の異なる鉱物脈の分離などの課題も見えてきた。地震性高速変形班は2000年鳥取県西部地震の余震域周辺における断層露頭調査を開始し,数多くの断層露頭を確認したほか、活断層の存在が地形的に不明瞭な地域における断層の特徴についての知見を得た。また、当初計画されていなかった、2014年長野県神城断層地震を起こした神城断層周辺における地質踏査を行ったほか、断層のトレンチ調査に参加し、断層試料の採取を実施した。下部地殻班は、ノルウェーでの調査を開始し、採取試料の変形微細組織観察、鉱物化学組成測定、結晶方位解析を行った。得られた結果は、すでに1編の国際誌論文として出版された。地震観測サブグループは断層強度と応力場の関係を見出す手法開発を行い、2013年淡路島の地震に適用した。その結果、地震前に断層で応力集中があったこと、この断層が非常に高い間隙流体圧の環境であったことを示した。この結果は国際誌論文として出版された。また、鳥取県西部地震震源域で詳細な断層形状を見出す機器開発を行い、今後、内陸地震発生域においてテスト観測を行い、チューニングをすることで、平成29年度に予定している鳥取県西部地震震源域での観測への準備を進める。
B01班の研究目的は断層の構造発展とそれに伴う軟化を明らかにし、断層に沿って周期的に生じる地震性高速すべりとの関連を明らかにすることである。また、地質学的時間スケールで長期間かけて成長した断層帯と、現在生じている地震活動の関連を解明することも大きな目的となっている。このため B01 班は4つの班に分かれ、それぞれの目的達成に適した研究フィールドで研究を行って来た。2年目を終わり、各班においては当初目指していた研究目的を達成する目途が立ちつつある。一方で、今後は融合研究を設定し、4つの班の研究を有機的に結合させる必要がある。本融合研究は新学術領域研究発足以前からの懸案であるが、地質学的に観察される長期的な断層構造の発展や強度低下の過程は、地震学的に観測される断層構造や応力の描像と関連付けて議論出来ると考えている。融合研究を可能にするのは、断層構造発展のモデル化であると考えられ、今後、モデルを構築するために4つの班の構成メンバーは密に議論を重ねる。さらに、A01班,B02班,C01 班などの他班とも協力しつつ、異なる観点からモデルの検証を行うことにより地殻ダナミクスの統合的解明を目指す。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (22件) (うち国際共著 5件、 査読あり 22件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (54件) (うち国際学会 8件、 招待講演 3件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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