研究領域 | 細胞死を起点とする生体制御ネットワークの解明 |
研究課題/領域番号 |
26110007
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
田中 稔 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 細胞療法開発研究室長 (80321909)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞死 / 肝再生 / 肝線維化 / 肝疾患 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
肝臓は再生する臓器として知られるが、急性肝障害では、残存した肝細胞が分裂することで肝臓は再生するのに対し、慢性肝障害では持続的な肝細胞死による炎症、肝線維化を背景として、肝幹/前駆細胞(LPC)が増殖・分化し、再生に寄与することが知られる。いずれの肝障害もその起点は肝細胞死であり、死の様式や死細胞から放出される因子が、その後の周囲に及ぼす影響(ダイイングコード)となり、再生様式や線維化に関わっていると考えられるが、その実体は不明である。 本年度は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)モデルを用いて、様々な計画的細胞死の時空間的解析を行なった結果、計画的ネクローシスの一つがNASH発症の起点になると共に脂質の過酸化が重要であることを見出した。さらに、様々な細胞死の抑制に関わる阻害剤を複数試した結果、NASHの起点となる細胞死をほぼ完全に止める阻害剤を見出した。 LPCによる肝再生機構については、肝疾患の違いとLPCとの関連性について調べた。NASHモデルと胆管炎モデルでは細胞死を主に起こす細胞種は肝細胞と胆管細胞で大きく異なるが、それに伴い出現するLPCの性状(運動性および管腔形成能)も明確に異なっていることを明らかにした。さらに、そのLPCの性状の違いを規定しうる新規因子を2種類同定した。 一方、肝線維化については肝臓の常在マクロファージであるクッパー細胞(KC)と骨髄由来マクロファージ (BMDM)の役割の違いに焦点を当て解析を行なった。ジフテリアトキシン依存性にKCを消去するマウスを利用し、我々が開発したオンコスタチンM(OSM)誘導性の肝硬変モデルマウスでKCを消去したが、肝線維化にほとんど影響は見られなかった。一方、線維の溶解過程には骨髄由来のある免疫細胞画分が関わる可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ある阻害剤の投与によりNASH発症をほぼ抑制することができ、NASHの起点となる細胞死様式の絞り込みをほぼ終えて論文作成にとりかかっているため。また、LPCの性状を規定しうる因子を2種類同定でき、そのうちの1つについて論文投稿できたため(現在、改訂中)。また、もう一方の因子についてはLPCだけでなく線維化にも関与していることを見出したため。加えて、線維化については、OSMによる肝線維化機構を解明し、論文として発表できたため。一方、KCとBMDMを分類した上で、それらの線維化における役割の違いの一端を明らかにすることができたが、骨髄由来マクロファージのオンコスタチンM刺激前後のマイクロアレイ解析による新たなダイイングコードの探索は、予想以上に回収できる細胞数が少なかったため予定より遅れている。この解析も近日中に完了する予定のため、総じて、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
骨髄由来マクロファージのオンコスタチンM刺激前後のマイクロアレイ解析による新たなダイイングコードの探索は細胞数が少なかったため、次世代シークエンサーによるRNAseq解析に変更することで解析を進める。また、LPCによる肝再生機構の解明では、計画にあるTrop2-creマウスを利用したLineage tracingによる手法だけでなく、レポーターマウスでラベルされたLPCをセルソーターで回収し、ジフテリアトキシン誘導性肝障害モデルマウスへの移植やin vitroでの肝細胞への分化誘導なども取り入れ、LPCの実態および分化制御機構の解明を目指す。また、LPCの制御と肝線維化の両方に関わる新規因子については、肝星細胞への直接作用も視野に入れた実験を新たに設定し、その分子メカニズムの解明を目指す。
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