計画研究
動物個体において、各臓器への酸素供給は赤血球を介して営まれることから、赤血球産生量の調節は微小環境への酸素供給量の変動に直結する。骨髄における赤血球の分化増殖は、腎臓由来の造血因子エリスロポエチン(Epo)により促進されるが、肝臓を中心とした鉄代謝系にも大きな影響を及ぼす。本研究では、低酸素誘導性の赤血球産生系が多臓器における複数の生体調節機構が連携したシステミックな制御系であることに着目し、その分子メカニズム解明を目指している。そのために、(1)エリスロポエチン遺伝子の発現制御機構の解析、(2)慢性貧血マウスを用いた低酸素適応機構の解析、(3)エリスロポエチンによる造血誘導機構の解析の3点について研究を展開してきた。平成27年度の研究では、エリスロポエチン遺伝子の腎臓特異的な制御領域が転写開始点上流域に広範囲にわたって散在することを明らかにした。この結果をもとに、腎臓におけるエリスロポエチン産生能が著しく低下した遺伝子改変マウスの作出を試みたところ、期待通りに成獣で重篤な貧血を呈するマウスを得た(論文投稿準備中)。また、腎臓におけるエリスロポエチン遺伝子の発現制御機構を明らかにするために低酸素応答系因子群の遺伝子改変マウスの解析を行い、PHD2-HIF2経路の重要性を明らかにした(Souma et al, J Am Soc Nephrol)。この成果によって、PHD阻害剤による腎性貧血治療が有効であることを示すことができた。さらに、エリスロポエチン欠乏性貧血マウスの解析を行い、現在利用されている造血刺激製剤(ESA)の個体レベルでの作用機序を明らかにした(論文投稿中)。
2: おおむね順調に進展している
(1)エリスロポエチン遺伝子の発現制御機構の解析では、腎臓におけるエリスロポエチン遺伝子の制御領域を明らかにし、その機能解析まで行うことができた。また、制御因子の解析も行い、病態との関連を明らかにした。(2)慢性貧血マウスを用いた低酸素適応機構の解析では、腎臓、骨格筋および肝臓における代謝産物と転写産物の網羅的解析を行い、とくに肝臓において特徴的な遺伝子発現様式を同定した。(3)エリスロポエチンによる造血誘導機構の解析では、ESAの作用機序を詳細に解析することができた。また、赤芽球におけるエリスロポエチンの標的遺伝子を網羅的に明らかにした。
(1)エリスロポエチン遺伝子の発現制御機構の解析では、エリスロポエチン遺伝子の制御領域と制御因子の詳細な解析を行い、分子メカニズムを明らかにする。そのために、腎エリスロポエチン産生細胞の単離培養技術を確立する。(2)慢性貧血マウスを用いた低酸素適応機構の解析では、慢性低酸素の肝臓において特異的に著しく発現誘導される遺伝子を同定したので、その機能解析を行う。(3)エリスロポエチンによる造血誘導機構の解析では、赤芽球におけるエリスロポエチンの標的遺伝子を網羅的に明らかにしたので、その制御機構と役割について遺伝子改変マウスを用いた解析を行う。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (22件) (うち国際共著 5件、 査読あり 22件、 謝辞記載あり 10件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 5件)
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