計画研究
臓器リモデリングによる低酸素応答機構の解析として、主な病態を形成している腎臓・心臓・肝臓の実質細胞の障害、炎症細胞の活性化、臓器の線維化に注目して、解析を進めている。低酸素状態を in vivo で定量的に評価するため、本研究領域 飛田成史と共同研究で新規低酸素感知プローブの開発を進め、生体内で細胞レベルの酸素分圧を評価することに成功し、論文報告を行った。また、新規低酸素感知プローブで低酸素の関与を示した線維化モデルにおいて、低酸素に伴いエピジェネティックな変化が起きており、これをターゲットとした介入が治療に有効であることを示し、論文報告を行った。また、非がん細胞においてHIF-1alpha-PDK1シグナルが最も鋭敏な低酸素センサーとして機能し、解糖系への代謝シフトを誘導すること(Active Glycolysis)が、線維化過程での線維芽細胞活性化において中心的役割を果たしていることを同定し、論文報告を行った。更に、腫瘍細胞において正常酸素分圧下においても解糖系代謝が優位となるWarburg効果の分子機序について、本研究領域 中山恒と共同研究を行い、低酸素状態がピルビン酸脱水素酵素(PDH)複合体の一つPDH-E1beta発現を低下させること、PDH-E1beta発現低下が正常酸素分圧下においてもPDH活性を低下させることを確認し、腫瘍細胞におけるWarburg効果を説明する新たな機序として論文発表を行った。更に、アセトアミノフェン肝炎モデルを用いて、T細胞系自然免疫細胞を介した急性炎症における低酸素ストレス応答の解明に取り組んだ。T細胞の低酸素応答転写因子HIF-1欠損により肝炎が遷延すること、この肝炎の増悪が好中球の過剰な浸潤によることを見いだし、この作用機序としてHIF-1欠損に起因したT細胞の障害肝への異常な集積が関わっていることを明らかに、論文発表した。
2: おおむね順調に進展している
本研究領域内での共同研究が順調に発展し、低酸素感知方法については予定以上の進展が得られ、当初予定していた低酸素に伴うエピジェネティックな制御機構の解明も順調に進展している。また、本研究領域で見出したActive Glycolysis機構が線維芽細胞活性化に重要であることを同定し、更にがん細胞におけるWarburg効果の新たな機序を突き止め論文化することができた。心臓リモデリングにおける低酸素・炎症シグナルの機序解明についても予備的知見を集積している。薬剤性急性肝炎の病態形成にかかわるT細胞の低酸素ストレス応答の役割についても、その分子機構の一端を明らかにし報告した。この解析結果は、慢性炎症だけでなく、急性炎症においても、T細胞のHIF-1が病態保護的に働いていることを示した重要な知見である。また、マクロファージや好中球の細胞遊走におけるHIF-1の促進的な作用とは異なり、T細胞のHIF-1が炎症部位への過剰な集積を抑制する因子として作用を持つことを示した点でも興味深い。一方、マウス、培養細胞やショウジョウバエを用いて、糖尿病や肥満などの生活習慣病の病態進展におけるHIF-1の生物機能解析にも継続的に取り組むことで、肝臓や脂肪組織のHIF-1による新しい代謝調節メカニズムの解明が進んできている。
最終年度となる今年度は、これまでに取り組んで来た研究をさらに加速させることで、生活習慣病における低酸素応答とHIF-1の病態作用の解明に取り組む。腎臓の障害における低酸素応答の役割を、細胞種特異的な HIF の活性化動物や HIF 活性化化合物を用いて、メタボロームなどを組み合わせて解析を進める。心臓リモデリングにおける低酸素シグナル、Active Glycolysisを介する炎症細胞集積の分子機構とその病態における役割を明らかにする予定である。既に病態モデルでの解析を開始しており、臓器リモデリングを調節する鍵となる分子を探索する。また、肝臓特異的HIF-1欠損マウスを用いて見いだしてきた抗糖尿病因子のニューレグリン1やGPNMBの生物作用を解明する。また、個体発生や生体内糖代謝調節におけるHIF-1による機能を分子レベルで明らかにしていく。これらの解析を通じて、低酸素応答ストレスと生活習慣病の関わりを、代謝制御の側面からさらに理解を深めていく。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (20件) (うち査読あり 20件、 オープンアクセス 13件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 14件、 招待講演 13件)
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