計画研究
新たなO2受容器とO2センサーチャネルの同定に向けて、TRPA1のO2感受性に関する分子進化的解析を行った。一部の有袋類においてのみ、低O2の感知に関係するTRPA1のプロリン残基Pro394が保存されていることから、胎盤(胎生)の獲得にともなってTRPA1の低O2感知が獲得されたと考えられた(未発表)。活性酸素種(ROS)の一つであるH2O2により活性化が誘導されるTRPM2に関しては順調に成果が得られている。例えば、敗血症(Sepsis)は、病原体によって引き起こされた非常に重篤な全身性炎症反応症候群であり、ショック、DIC、多臓器不全などから早晩死に至る。今回、TRPM2 ノックアウト(KO)マウスを用いることにより、TRPM2が敗血症の発症に果たす役割を解明した。即ち、TRPM2は比較的早期には好中球遊走を強く誘導するが、一酸化炭素CO産生酵素の活性を誘導することにより抗酸化物質ビリベルジンの産生を誘導し、敗血症の重篤化を抑えていることが明らかになった((Qian X, Numata T, et al. Anesthesiology 121, 336-351 (2014))。一方、redox感受性TRPチャネルの一つであり活性窒素種(RNS)TRPV4に関しても興味深い成果が得られた。TRPV4のN末端のankyrin repeats構造はPIP2に結合することによりチャネル活性が抑制されており、IP3などがそれを競合的に除くことでチャネルを活性化することが明らかとなった。これは、新たなankyrin repeats構造の作用様式だけでなく、TRPチャネルの新たな活性制御機構を明らかにした成果である(Takahashi N, et al. Nature Commun. 5, 4994 (2014))。
2: おおむね順調に進展している
O2を起源とするROSやRNSの標的であるTRPチャネルに関する成果が多く得られた。これらのTRPの多くが体内外のO2環境の変動により活性を誘導・増強されることが考えられ、O2に対する生体応答に関する重要な知見が得られているとお言える。また、酸素受容器の同定がTRPA1を切り口として順調に進行している。さらに、O2のin vivo可視化に向けて、Ir錯体型プローブの各種単離細胞への適用に関する初期的な実験も開始している。以上の点から、計画は概ね順調に進行していると判断できる。
TRPA1を切り口とした新規酸素受容器の同定については今後、発現細胞を単離し生理学測定により進める。これに、TRPA1 KOマウスを組み合わせ、O2応答性とそのin vivoにおける意義を確立する。また、TRPM7の担うO2リモデリングに関する研究については、条件的ノックアウトマウスが完成し、Tamoxifen誘導性のCreマウスとのかけ合わせにより、培養系及び全身性のTRPM7 KO誘導を用いた実験が可能になったことから、生体内O2の環境リモデリングにおいてTRPM7が誘導するシグナル経路・転写因子を明らかにする研究を強く推進できる。一方、Ir錯体型プローブのin vivo適用によるO2環境のイメージング関しては、分担研究者である長嶋及び浦野班の分担研究者である飛田等との協力で研究を進める。ここでは、総括班で森班が中心となって設置する、領域の共通機器である2光子顕微鏡のIr錯体型プローブへの最適化を進める。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 備考 (1件)
Anesthesiology
巻: 121 ページ: 336-351
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http://www.sbchem.kyoto-u.ac.jp/mori-lab/