計画研究
TRPV1タンパク質はチャネルを構成する際に、2つの特定のシステイン残基の間のジスルフィド結合を介して2量体化し、さらにそれが2量体化して4量体を形成することが分かった。その際にジスルフィド結合に加わらず残ったfreeのシステイン残基が、TRPV1チャネルの酸化センサー機能を担うことも明らかになった。また、TRPV1はProstaglandin J2による親電子修飾を受け、Ca2+流入を介してPC12細胞の神経様形態変化を惹起することを示した。TRPV1は肝細胞株HepG2細胞におけるアセトアミノフェン誘導性の酸化ストレスによる細胞死をCa2+流入を介して担うことも明らかになった。さらに、細胞内のNOXの活性化を引き起こすTRPC群の選択的活性化剤を開発し、内因性活性酸素種産生を惹起する重要な手立てを獲得した。一方、ミトコンドリアの酸素依存的なエネルギー産生・蓄積能を定量する重要なツールとして使える、蛍光プローブtsGFPの有効性を理論的に検証することにも成功した。以上の成果は、査読論文として発表した。新たなO2受容機構の発見に向けては、TRPA1のO2感受性に関する分子進化的解析を行った。一部の有袋類においてのみ、低O2の感知に関係するTRPA1のプロリン残基Pro394が保存されていることから、胎盤(胎生)の獲得にともなってTRPA1の低O2感知が獲得されたと考えられた。実際に胎盤血管等由来の血管内皮細胞にはTRPA1タンパク質が発現しており、それが低酸素に応答応答しイオン(Ca2+)電流を生じることがわかった(未発表)。
2: おおむね順調に進展している
TRPM7の担うO2リモデリングに関する研究については、Tamoxifen誘導性の条件的ノックアウトマウスが完成し、膵臓の星細胞などの培養系及び全身性のTRPM7 ノックアウト誘導するシステムを構築した。また、膵島細胞内におけるりん光性分子プローブを用いた酸素分圧測定を行った。低侵襲的で高空間分解能・リアルタイム計測可能なイリジウム錯体を用いたりん光性分子プローブ(群馬大学:吉原、飛田)をマウス尾静脈あるいはスプレー状に膵組織に直接散布浸透投与し、開腹状態(in vivo)膵臓での膵島細胞酸素分圧測定を行った。呼気酸素分圧変化(21%→15%→10%)依存的にリン光寿命延長(酸素分圧低下)を確認した。また、マウス単離膵島(プローブ添加30分培養後)でのin vitro実験を行い、グルコース濃度反応性リン光寿命延長(細胞内酸素分圧低下)を認め、本りん光プローブは、in vivo、 in vitroともに膵島細胞内酸素分圧が解析可能であることが示された。以上の点から、計画は概ね順調に進行していると判断できる。
TRPA1を切り口とした新規酸素受容器の同定については今後、マウスin vivoでのTRPA1ノックアウトマウスを用いた生理学的検証を進める。TRPM7が担うO2リモデリングに関する研究についても同様に、マウスin vivoでのノックアウトマウスを用いた生理学的検証を進める。また、生体内O2の環境リモデリングにおいてTRPM7が誘導するシグナル経路・転写因子を明らかにする。一方、Ir錯体型プローブのin vivo適用によるO2環境のイメージング関しては、分担研究者である長嶋及び浦野班の分担研究者である飛田等との協力をさらに進め、総括班で森班が中心となって設置する、領域の共通機器である2光子顕微鏡を用いた観察を行う。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 2件)
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