研究領域 | 酸素を基軸とする生命の新たな統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
26111005
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所) |
研究代表者 |
井上 正宏 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所), 研究所, 総括研究員(生化学部門長) (10342990)
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研究分担者 |
青木 正博 愛知県がんセンター(研究所), 分子病態学部, 部長 (60362464)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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キーワード | 低酸素 / 代謝リモデリング / 癌 / 休眠 / 初代培養 |
研究実績の概要 |
癌組織の内部環境は低酸素であり、低酸素は癌の転移などの悪性化や治療抵抗性と密接に関連している。癌細胞は、供給の不足下で酸素消費をすることで低酸素になると、酸素消費を落として危機的な酸素欠乏を回避すると同時に、幹細胞性の獲得や分化誘導など質的な変化が惹起される。これまで低酸素誘導dormancy (休眠)はin vitro実験系が存在しなかったが、我々の開発した癌細胞培養法Cancer Tissue-Originated Spheroid 法(CTOS 法)によって実験的に解析することが可能になった。 本年度はdormancyの代謝状態の変化を解析し、酸素消費が低下していることを明らかにした。また、急性期低酸素応答とは対照的に、解糖系も低下していた。さらにdormancy状態の維持にはAKTの不活性化が必要であることを明らかにした。次に、dormancy マーカーの探索を行うために網羅的遺伝子発現比較を行い、dormancyで特異的に発現の上昇する遺伝子(dormancy marker)を同定したが、mRNA発現と蛋白発現の間に乖離があり、dormancy下では全体的に蛋白合成が低下していることが明らかになった。一方、EGFR遺伝子変異のある肺癌CTOSも低酸素下でdormantになり得るが、EGFRの活性化はdormant状態でも維持されていて、その下流シグナルが抑制されていた。下流シグナルの抑制を制御する候補遺伝子としてXを同定した。Xは低酸素でHIF-1α, -2α依存的に誘導され、ノックダウンによりdormancy維持が阻害されることを明らかにした。Xの作用点がERBBファミリーのヘテロダイマー形成の阻害であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、dormancy状態の特徴解析として、まずCTOS内の癌細胞のdormancyの特徴を明らかにすることを計画した。dormancyの代謝状態の変化(リモデリング)を酸素消費、グルコース代謝の側面から解析することを計画し、代謝的に不活発な状態であることを確定した。HIF-1α, -2αの関与を明らかにするために、CTOSでHIF-1α, -2αのノックダウンを行うことを計画し、安定株を作成した。現在dormancyへの影響を検討中である。Dormancy下の細胞内増殖シグナルの解析を計画し、下流で遮断されるという特徴を明らかにした。dormancyで特異的に発現の上昇する遺伝子(dormancy marker)の探索を計画し、網羅的な遺伝子解析で候補遺伝子を抽出した。遺伝子発現と蛋白レベルが大きく乖離していることを見出し、蛋白合成の低下が特徴的であることを明らかにした。従って、dormancyマーカーの染色の検討には至っていない。Metabolome解析を共同研究者と開始した。青木グループは自然発癌マウスモデルからのCTOS調製を計画し、それに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
dormancy下の蛋白合成低下に着目して、miRNAによる制御を検討し、逆にdormancy下で合成が持続する蛋白をpolysome分画のDNAマイクロアレイで探索する。Dormancyの制御因子Xについては、ノックアウトマウスの導入を試み、自然発癌マウスモデルでのdormancyを評価する。また、Dormant下での細胞の質的変化(幹細胞性、細胞分化など)を機能評価試験(マウス造腫瘍能、スフェロイド形成試験)で検討する。
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