計画研究
癌組織の内部環境は低酸素であり、低酸素は癌の転移などの悪性化や治療抵抗性と密接に関連している。酸素供給の不足下で癌細胞が酸素消費をすることで癌組織が低酸素になると、酸素消費を落として危機的な酸素欠乏を回避すると同時に、幹細胞性の獲得や分化誘導など質的な変化が惹起される。これまで低酸素誘導dormancy(休眠)はin vitro実験系が存在しなかったが、我々の開発した癌細胞培養法Cancer Tissue-Originated spheroid法(CTOS法)によって実験的に解析することが可能になった。前年度までにEGFR遺伝子変異のある肺癌CTOSが低酸素下でdormantになり得ること、EGFRの活性化がdormant状態でも維持されているが、低酸素下で誘導されるMIG6がERBBファミリーのヘテロダイマー形成を阻害することで下流シグナルが抑制されていることを明らかにしてきた。本年度はMIG6の発現がHIFによる転写制御だけでなく、翻訳レベルでも制御されていること、EGFRシグナルが上流にいることを明らかにした。また、Dormant状態の癌細胞が化学療法や放射線療法、EGFR-TKI(tyrosine kinase inhibitor)に耐性であること、MIG6のノックダウンにより感受性が回復することを明らかにした。さらに、EGFR-TKI治療を受けた肺癌患者検体でのMIG6の発現を免疫組織学的に検討したところ、発現の高い症例は治療後の再発期間が有意に短いことを明らかにした。MIG6によるdormancyの誘導がEGFR-TKI治療の抵抗性に関与している可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
上記項目では成果が得られたが、いくつかの目標に掲げた項目については十分な結果が得られていない。本研究ではDormancyで特異的に発現する遺伝子、タンパク質、miRNAの探索を一つの目標に掲げている。昨年度までに遺伝子発現とタンパク量が多くの遺伝子で相関しないことを明らかにした。本年度は大腸癌CTOS 2例、肺癌CTOS 2例における休眠状態のmiRNA array解析を行った。休眠状態で2倍以上発現が上昇したmiRNAは137(うち91が大腸癌、肺癌共通)あり、0.5以下に発現が低下したmiRNAは57(うち24が大腸癌、肺癌共通)であった。検証と機能解析は次年度に繰り越された。トランスジェニック肺癌自然発癌マウスモデルを導入し、MIG6ノックアウトマウスと交配することで、in vivoでのMIG6腫瘍の役割を明らかにすることを計画したが、in vitro実験の結果、EGFR変異型腫瘍でのみMIG6はdormancyに関与しており、現在検証が可能なRAS/p53トランスジェニックマウスでは検証できない。休眠下の幹細胞性や分化度の変化を検討した。大腸癌において、腸管上皮幹細胞マーカーの遺伝子発現は、通常培養条件ではCTOSの増殖とともに低下するが、休眠状態のCTOSでは高く保たれていた。一方で、分化マーカーの発現も休眠状態のCTOSで発現が上昇した。つまり、休眠状態のCTOSでは幹細胞性の維持と分化という両局面を併せ持つ遺伝子発現パターンを示した。報告されている癌幹細胞マーカーは休眠状態のCTOSでむしろ低下したが、マウスへの造腫瘍能、放射線照射後の再増殖能は休眠状態のCTOSの方が高かった。以上のことから、休眠での幹細胞性や分化度は一方向性の変化ではない。
昨年度までにCTOSを用いたハイスループットスクリーニング系を確立した。本年度は作用点が既知の1280の薬剤を用いて、dormancy CTOSに有効な薬剤をスクリーニングする。これまでに一つのCTOSラインについて常酸素下での薬剤スクリーニングを終えているので、そのデータと比較することにより、dormancyに特異的に有効な薬剤がある場合は、dormancy下の生存に必須のpathwayとして標的分子周辺経路の解析を行う。また、CTOS移植腫瘍マウスを単剤あるいは増殖を標的とした薬剤との併用療法で治療し、Dormancy標的化が治療として有効かどうかのproof of concept取得を目指す。昨年度までにmetabolome, proteome, transcriptomeの統合的解析を行ってきた。本年度はその解析結果を元に、dormancyに特徴的なマーカーの探索を継続して行う。大腸がんマウスモデルであるApcマウスを用いた解析では、昨年度までに大腸ポリープ由来のオルガノイド培養を確立し、低酸素が休眠状態を誘導することを確認した。また、Apcマウスの免疫組織化学的解析から、腫瘍内酸素濃度が不均一であり、酸素濃度が腫瘍細胞の増殖に関与する可能性を示唆するデータを得た。本年度は、酸素濃度と腫瘍細胞の増殖・休眠との関係について、in vitro, in vivoの系を用いて検討する。
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