計画研究
癌組織の内部環境は低酸素であり、低酸素は癌の転移などの悪性化や治療抵抗性と密接に関連している。本研究は、癌細胞が、必要とする最適な酸素濃度領域を能動的に構築する「酸素リモデリング」によって確立する動的平衡の実態を明らかにすることを目的とする。我々の開発した癌細胞初代培養法Cancer Tissue-Originated Spheroid 法(CTOS 法)は、分化状態に代表される患者腫瘍の特性を維持しており、これまでin vitro実験系が存在しなかったためにほとんど解明されていない癌細胞におけるdormancy (休眠)誘導の分子メカニズムを明らかにするために有用である。これまでに子宮頚部小細胞神経内分泌癌に由来するCTOSの一例が、患者腫瘍と同様に小細胞癌だけでなく腺癌にも分化できることが判明した。我々は分化状態が維持されているCTOSの特性を利用して、単細胞追跡により単細胞から両成分が生み出されていることを証明した。さらに分化方向を規定する因子が低酸素であることを明らかにした。以上より、分化転換は腫瘍の「酸素リモデリング」の一面である可能性がある。これまで大腸癌CTOSを用い、常酸素下でのハイスループットスクリーニングを浮遊培養系で行った。dormancyのスクリーニング系にはECM包埋下がより適しているが、ECM包埋下のスクリーニング系は、CTOS分配や画像データ取得技術を新たに開発する必要がある。大腸がんマウスモデルであるApcマウスを用いた解析により、昨年度までに大腸ポリープ由来のオルガノイド培養で低酸素が休眠状態を誘導することを示した。また、正常大腸粘膜が低酸素状態であることを明らかにしたが、これは腸内細菌叢による管腔内の低酸素状態と上皮による活発な酸素消費による「酸素リモデリング」に起因するものである可能性がある。さらに大腸ポリープでは低酸素が腫瘍細胞の増殖に関与する可能性を示すデータを得た。
2: おおむね順調に進展している
低酸素下でのがん細胞の分化制御について、分化状態が維持されているCTOSを用いて研究を行った。これまでに子宮頚部小細胞神経内分泌癌に由来するCTOSの一例が、患者腫瘍と同様に小細胞癌だけでなく腺癌にも分化できることが判明した。これまでにゲノム解析などにより混合腫瘍が同一のクローン由来であることが示唆されていたが、確証には至っていなかった。我々は分化状態が維持されているCTOSの特性を利用して、単細胞追跡により初めて単細胞から両成分が生み出されていることを証明した。さらに分化方向を規定する因子が低酸素であることを明らかにした。つまり、低酸素下で神経内分泌的性質が低下する。以上より、分化転換は腫瘍の低酸素適応の一つである可能性がある。これまで大腸癌CTOSを用い、常酸素下でのハイスループットスクリーニングを浮遊培養系で行った。しかし、dormancyを障害する薬剤のスクリーニングのためには、いくつか問題点があることも判明した。これまで浮遊のCTOSで解析を行ってきたが、浮遊条件と細胞外基質(ECM)包埋条件とでは増殖に大きな差がある。dormancyのスクリーニング系にはECM包埋下がより適しているが、ECM包埋下のスクリーニング系は、分配や画像データ取得技術を新たに開発する必要がある。これまでのメタボロームの解析結果よりdormancyで特異的に上昇する代謝物Xを同定し、その合成酵素Y, Zに着目してノックダウン等の実験を行ったが、低酸素でZ合成酵素自体の発現が蛋白レベルで劇的に低下していることが判明した。大腸がんマウスモデルであるApcマウスを用いた解析により、昨年度までに大腸ポリープ由来のオルガノイド培養で低酸素が休眠状態を誘導することを示し、さらに大腸ポリープでは低酸素が腫瘍細胞の増殖に関与する可能性を示すデータを得た。
低酸素下でのがん細胞の分化制御について、分化状態が維持されているCTOSを用いて研究を行う。分化転換は腫瘍の低酸素適応の一つである可能性がある。これまでに子宮頚部小細胞神経内分泌癌に由来するCTOSの一例が腺癌にも分化できること、低酸素で神経内分泌的性質が低下することを明らかにしている。本年度はHIFやNotchシグナルに着目して低酸素下での分化状態を規定する分子メカニズムを明らかにする。また、dormancy下では幹細胞性と細胞分化がCTOSの中で共存し、必ずしも相反しないことを明らかにしている。本年度は低酸素・増殖シグナル・分化転換の分子メカニズムを明らかにする。これまでに確立したハイスループットスクリーニング系を応用して、dormancy CTOSを障害する薬剤の探索を行う。今年度は、上記問題点を克服するために、複数CTOS/1ウエル、ECM存在下のスクリーニング系を確立し、dormancy CTOSに有効な薬剤をスクリーニングする。具体的には分配や画像データ取得技術を新たに開発する。CTOS移植腫瘍マウスを単剤あるいは増殖を標的とした薬剤との併用療法で治療し、dormancy標的化が治療として有効であることのproof of concept取得を目指す。メタボロームからのdormancyへのアプローチに関しては、今年度は候補metaboliteを制御する分子メカニズムに関して、ノックダウン等の実験を継続し、proteomicsのデータも統合し、dormancy特異的な代謝経路の探索を行う。大腸がんマウスモデルであるApcマウスを用いた解析に関しては、本年度は、低酸素と腫瘍細胞の増殖・休眠との関係について、Apc/Fucci2マウス、Apc/Hif1a、Apc/Hif2a複合変異マウスなどを用いて、増殖状態をin vivoでリアルタイムモニタリングし、HIFの関与を検討する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (35件) (うち国際学会 2件、 招待講演 10件) 備考 (2件)
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