研究領域 | 酸素を基軸とする生命の新たな統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
26111005
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
井上 正宏 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), 研究所, 総括研究員(生化学部門長) (10342990)
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研究分担者 |
青木 正博 愛知県がんセンター(研究所), 分子病態学部, 部長 (60362464)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 低酸素 / 代謝リモデリング / 癌 / 休眠 / 初代培養 |
研究実績の概要 |
癌組織の内部環境は低酸素であり、低酸素は癌の転移などの悪性化や治療抵抗性と密接に関連している。我々の開発した癌細胞初代培養法Cancer Tissue-Originated Spheroid 法(CTOS 法)は、分化状態に代表される患者腫瘍の特性を維持しており、これまでin vitro実験系が存在しなかったためにほとんど解明されていない癌細胞におけるdormancy (休眠)誘導の分子メカニズムを明らかにするために有用である。 分化制御については、昨年度までに子宮頚部小細胞神経内分泌癌に由来するCTOSの一例は腺癌にも分化できること、低酸素で神経内分泌的性質が低下することを明らかにしていた。CTOSの単細胞および移植腫瘍における組織型ごとの遺伝子発現解析を行い、この腫瘍細胞は単に二つの組織型からなるのではなく、中間的な細胞を多く含んでいることを明らかにした。 これまで大腸癌CTOSを用い、常酸素下でのハイスループットスクリーニングを浮遊培養系で行った。dormancyのスクリーニング系にはECM包埋下がより適していることから、ECM濃度を最適化したハイスループットスクリーニングに適した評価系を確立した。標的既知の阻害剤パネルをスクリーニングし、dormancy細胞を障害する候補薬を得た。 腸管腫瘍形成において腸管上皮細胞内の低酸素関連因子HIF1およびHIF2が果たす役割を検討するため、Apc/Hif1FLまたはHif2FL/Villin-CreERT2複合変異マウスを作出した。腸管上皮細胞特異的にHIF1遺伝子の欠損が誘導されることを確認した。HIF1の欠損により腸管腫瘍形成数が影響されるか解析中である。また、MyD88とHIF1が協調してApc変異マウスの腸管腫瘍形成を促進する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低酸素下でのがん細胞の分化制御について、分化状態が維持されているCTOSを用いて研究を行った。これまでに子宮頚部小細胞神経内分泌癌に由来するCTOSの一例が、患者腫瘍と同様に小細胞癌だけでなく腺癌にも分化できること、遺伝子マーキングによる単細胞追跡を行い単細胞から両成分が生み出されていることを証明した。さらに分化方向を規定する因子が低酸素であることを明らかにしていた。昨年度は低酸素応答がHIFとNotchを介していることを明らかにした。また、CTOSの単細胞および移植腫瘍における組織型ごとの遺伝子発現解析を行い、この腫瘍細胞は単に二つの組織型からなるのではなく、中間的な細胞を多く含んでいることを明らかにし論文投稿した。 これまで大腸癌CTOSを用い、常酸素下でのハイスループットスクリーニングを浮遊培養系で行ってきた。一方、dormancyのスクリーニング系にはECM包埋下がより適していることが判明していたので、最適なマトリゲル濃度を確定した。同時にこれに適した培養、評価系も確立し、標的既知の阻害剤パネル90薬剤を用いてスクリーニングを実施し、dormancy細胞を障害する候補薬を得た。候補薬のうち3剤は共通の分子標的を持ち、この経路がdormancy に必須であることも明らかにした。 これまでのメタボロームの解析結果よりdormancyで特異的に上昇する代謝物Xを同定し、その合成酵素Y, Zに着目してノックダウン等の実験を行ったが、低酸素でZ合成酵素自体の発現が蛋白レベルで劇的に低下していることまでは既に明らかにしていたが、昨年度は特記すべき進展はなかった。 Apc/Hif1FL/Villin-CreERT2およびApc/Hif2FL/Villin-CreERT2マウスの作出に時間を要し、マウスを用いた生体レベルでの解析がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
低酸素下でのがん細胞の分化制御について、分化状態が維持されているCTOSを用いて研究を行う。分化転換は腫瘍の低酸素適応の一つである可能性がある。これまでに子宮頚部小細胞神経内分泌癌に由来するCTOSの一例が腺癌にも分化できること、この腫瘍細胞は単に二つの組織型からなるのではなく、中間的な細胞を多く含んでいることを明らかにしたので、この中間的な細胞を含めた分化転換の系譜を明らかにする。 Dormancy CTOSを障害する薬剤をスクリーニングの結果同定したので、本標的分子による細胞死の様式やdormancy における役割を詳細に解析する。CTOS移植腫瘍マウスを本分子標的薬単剤あるいは増殖を標的とした薬剤との併用療法で治療し、dormancy標的化が治療として有効であることのproof of concept取得を目指す。 メタボロームからのdormancyへのアプローチに関しては、今年度は候補metaboliteを制御する分子に関して、ノックダウン細胞のメタボローム解析を進め、当該分子をノックダウンすることで目的とする代謝物が本当に低下するかどうかを検討する。また、CTOSのライン数を4ラインに増やし、dormant条件下で上昇する代謝物が同一であるかどうかを検討する。 作出したApc/Hif1FLまたはHif2FL /Villin-CreERT2複合変異マウスについて、in vivoでの解析を継続する。また、腫瘍形成におけるMyD88とHIF1の作用について、ヒト大腸がん細胞株やマウス腸管組織由来のオルガノイド培養を用いたin vitroでの解析を行う。これらの解析により、腸管腫瘍形成におけるHIFの生体レベルと細胞レベルでの役割、そして適切な低酸素応答の重要性を明らかにする。
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