低酸素は癌の転移などの悪性化や治療抵抗性と密接に関連している。我々の開発した癌細胞初代培養法(CTOS 法)は、患者腫瘍の特性を維持しており、これまでin vitro実験系が存在しなかったためにほとんど解明されていない、癌細胞における分化やdormancy (休眠)誘導の分子メカニズムの解明に有用である。 これまでに子宮頚部小細胞神経内分泌癌に由来するCTOSの一例は、単細胞から神経内分泌癌および腺癌の両方に分化できること、低酸素で神経内分泌的性質が低下することを明らかにした。培養下で腺癌的性質が失われるが、2018年度は、それを回避する培養条件を見出した。さらに単細胞遺伝子発現解析を行い、単細胞レベルで混合型腫瘍の特性を確認するとともに、低酸素による強い分化抑制が起こることを明らかにした。 これまでにCTOSを用いた常酸素下でのハイスループットスクリーニング法を確立し、低酸素、低増殖因子下dormancy細胞を障害する候補薬を得ていた。2018年度はこれら候補薬の検証を行ったが、いずれも低増殖因子下での増殖を抑制するが、低酸素、低増殖因子下の完全なdormancyを特異的に阻害するものでないことが判明した。 腸管腫瘍形成においてHIF-1αおよびHIF-2αが果たす役割を検討するため、腸上皮特異的なHIF-1αおよびHIF-2α誘導可能型複合ノックアウトマウス作出した。Apc 変異マウスでHIF-1αまたはHIF-2αを欠損させたところ、HIF-1αの欠損により腸管腫瘍数が減少した。また、MyD88を腸管上皮細胞特異的に欠損させると腫瘍数が減少するが、これらポリープではHIF-1αタンパク量も減少していた。これらのことから、HIF-1αとMyD88は協調的に腸管腫瘍形成に重要な役割を果たすことが示唆された。
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