研究領域 | 酸素を基軸とする生命の新たな統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
26111007
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三木 裕明 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (80302602)
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研究分担者 |
服部 一輝 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (40708575)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / ストレス |
研究実績の概要 |
活性酸素センサー分子PRLとその標的分子CNNM/MagExの結合が細胞内Mg2+で調節される分子機序を調べたところ、PRLのレドックス応答性Cysがリン酸化されていることが分かった。リン酸化PRLはCNNMと結合しないので、このMg2+応答性のCysリン酸化はPRL/CNNMの結合調節に働いていると考えられる。TRPM6-KOマウスの作成を引き続き進め、TRPM6遺伝子をホモ欠損すると致死となることが分かった。これは文献的に予想された結果だったが、Six2-Creマウスとの交配により腎臓特異的KOへ進め、目的のマウスが生育することを確認できた。一方、他の研究の中で作成したCNNM変異体線虫をROS応答性の蛍光プローブで調べたところ、CNNM変異体でROSシグナルの特異的な増加が観察された。この変異体は腸でマグネシウム量が増加し、寿命が短くなっていた。マグネシウム調節異常がROS産生に繋がり、寿命を短縮している可能性が示唆された。
活性酸素種応答に重要なKLHDC10の欠損マウスが全身性炎症モデルに対して抵抗性を示す分子基盤の解析を引き続き進めた。その結果、KLHDC10欠損によってマクロファージ様細胞の細胞死が亢進することが明らかとなった。この現象は他の複数の細胞種においては観察されておらず、マクロファージ様細胞に特異的なものと考えられ、これが全身性炎症抑制をもたらしたと考えられる。KLHDC10欠損マウスを用いた本研究によって初めてKLHDC10の生理的意義が明らかになった。KLHDC10はMAPキナーゼ経路に属するASK1の上流因子として同定され、過酸化水素依存的な細胞死に対して寄与することが明らかとなっている。KLHDC10の機能解析と並行してASK1の酸化ストレス応答に関する解析も進め、過酸化脂質シグナルにASK1が応答する可能性を新たに見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、活性酸素の直接の酸化標的となる活性酸素センサー分子に着目して、細胞の活性酸素応答を分子レベルで明らかにすることを目的としており、センサー分子PRLやKLHDC10-PP5の酸化に始まる分子応答機序や、その下流で起こるMg2+輸送や細胞死などに関する解析を進める。28年度においては、交付申請書に具体的に記した研究計画をほぼ実施することができただけでなく、CNNM変異体線虫でのROS増加やASK1の過酸化脂質シグナルへの応答など当初予想していなかった研究成果が得られた。今後これらの発見をベースに本研究のさらなる発展が期待でき、その基礎となる重要な発見と位置付けられる。これらの理由から、28年度はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
順調に進展した28年度の研究成果を受けて、基本的には申請時の大まかな方向に沿って、さらに発展させてゆく形で今後の研究を進めて行くことを計画している。またそれと共に、新規に見出したCNNM変異体線虫でのROS増加やASK1の過酸化脂質シグナルへの応答などの重要な成果については、それを明確にしてゆくための研究計画を追加したり、よりフォーカスを強めた内容になっている。本研究の所期の目的である「細胞の活性酸素応答を分子レベルで明らかにする」に合致しており、これらの研究計画を実施することでさらに大きな発展が期待できる。
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