計画研究
1.生体内酸化修飾分子の網羅的解析:LC-ESI/MS/MSを用いて、マウス個体、培養細胞における、酸化修飾イミダゾールジペプチドの産生と酸化ストレスとの関連性を明らかにした。また、安定同位体酸素、ラジカル補足剤を用いて酸化修飾の分子機構を明らかにした。2.酸素活性化を起源とするタンパク質酸化修飾による生体防御応答機構の解析:タンパク質をピロール化する内因性因子の同定を目標に、糖質および脂質などについてスクリーニングを行なった結果、脂質過酸化生成物であり、解糖系分子でもあるグリコールアルデヒドを同定した。一方、植物性小分子酸素センサーであるポリフェノール類に関して、抗酸化剤の作用により生成するタンパク質カルボニルが自然抗体のエピトープとして認識される作用機構について詳細に解析した結果、タンパク質表面の陰性荷電がその認識に関わっていることが推測された。3.タンパク質酸化修飾を基軸にした修復・再生応答機構の解明:ホモシステイン化アルブミンの研究では、ホモシステイン化が遊離SH基だけでなく、ジスルフィド結合にも生じるという画期的発見に至った。心筋が低酸素環境下で活性酸素を生成する機構の解析の結果、アントラサイクリン系抗がん剤は心筋細胞に多く含まれる酸素貯蔵タンパク質ミオグロビンから鉄を引き抜き、貯蔵酸素を解離させることで低酸素ストレスを誘発することを見出した。また、低酸素誘導性のTRPC3チャネルタンパク質がNADPH酸化酵素(NOX2)を複合体形成依存的に安定化し、増加したNOX2が活性酸素を生成することで、心筋萎縮を誘発することをマウスで明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
生体内酸化修飾分子の網羅的解析では、イミダゾールジペプチドの2-oxo化の分子機構の解明に到達している。オリジナリティの高いタンパク質のピロール化では、内因性のピロール化因子を同定しており、酸素に起因する修飾タンパク質の生物学的意義の解明につながる可能性を示唆する。また、血清アルブミンのジスルフィド結合に対するホモシステイン化は画期的発見であり、SH化合物のリザーバーとしての血清アルブミンの新たな機能性の解明につながるものと期待される。
最終年度にあたり、成果発表(論文)を念頭に以下の項目について重点的に進める。1.酸化修飾イミダゾールジペプチドが、シグナル分子として機能しているかどうかを様々なモデル実験系で検証する。また、酸化修飾に関連するニトロ化、メルカプト化など他の修飾分子の探索、他の化合物(タンパク質など)中での修飾イミダゾール基の探索を行う。2.グリコールアルデヒドによるピロール化機構について詳細に解析するとともに、脾細胞などを用い、ピロール化タンパク質による自然免疫応答の分子機構を解析する。3.活性酸素による心筋の可塑性にはミトコンドリア分裂が関与しており、そのメカニズムとしてdynamin-related protein 1 (Drp1)タンパク質C末端にあるシステイン修飾が関与することも見出している。今後は、Drp1のシステイン修飾様式とDrp1活性との関連を明らかにし、そこを特異的に阻害することで心疾患リスクが軽減されることを検証する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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