研究領域 | 酸素を基軸とする生命の新たな統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
26111012
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浦野 泰照 東京大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (20292956)
|
研究分担者 |
飛田 成史 群馬大学, 理工学府, 教授 (30164007)
中川 秀彦 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (80281674)
|
研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
|
キーワード | 蛍光プローブ / リン光プローブ / ケージド化合物 / 発光プローブ / イメージング / グルタチオン / イリジウム錯体 / 硫化水素 |
研究実績の概要 |
本年度浦野はまず、独自に確立した消光原理(BioLeTと細胞膜透過性の制御)に基づき開発したhROS検出生物発光プローブによる、in vivo急性炎症イメージング手法の評価を行った。近赤外蛍光イメージングと比較して、圧倒的に高いS/Nでのライブイメージングが可能であることが証明された。次に、Siローダミンへの分子間求核付加を活用した細胞内グルタチオン濃度の可逆的検出蛍光プローブの開発に向け、蛍光団のLUMO及びベンゼン環2位に種々の置換基を導入したパイロット化合物群の合成を開始した。合成が完了したものから、その分光特性、GSH応答特性を詳細に検証した結果、GSHとの可逆的かつ即時的な応答が達成可能であることが明らかとなった。 飛田は、細胞内に取り込まれたイリジウム錯体のりん光寿命に基づいて、細胞内の酸素濃度を定量する技術の開発を行った。酸素濃度可変インキュベータを取り付けた倒立型蛍光顕微鏡を使って、HeLa細胞あるいはSCC-7細胞に取り込まれたイリジウム錯体(プローブ)のりん光寿命を観測した。インキュベータの酸素分圧を変えて寿命測定を行い、酸素分圧と寿命の関係を求めることにより検量線を作成した結果、インキュベータの酸素分圧を基準にしたcalibrationが可能であることが明らかになった。 中川は、生体内の活性イオウ化合物の役割を精査するための摂動型ケミカルツールとして、UVA領域の紫外線で制御出来る光制御型H2S放出化合物を設計合成した。In vitro系で光の照射時間・照射強度に応じてH2Sが放出されることが確認され、さらに培養細胞系で任意の位置・時間で狙った細胞にH2Sを投与することが可能であることが明らかとなった。光制御型NO放出化合物については、これまでの知見を応用し、可視光制御可能なNO放出化合物を開発し、その光応答性について化学的特徴を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
浦野は、activatable型生物発光プローブを精密に設計開発することで、極めて高いS/Nで、hROSを初めとする様々な酸化ストレスのin vivoイメージングが達成可能であることを明らかとし、本新学術領域の酸素生物学研究を進める上で大きな役割を担うことを証明した。さらに平成27年度研究を一部先取りし、細胞内グルタチオン濃度を可逆的かつリアルタイムに検出可能な蛍光プローブの設計指針の確立に一部成功した。以上のように本研究計画は、当初の計画以上に進展していると言える。 飛田は、平成26年度は細胞内の酸素濃度の定量に向けて、りん光寿命を酸素濃度に変換するためのcalibration法を検討した。まず、酸素濃度可変インキュベータを取り付けた倒立型蛍光顕微鏡を使って、インキュベータの酸素分圧を基準にして寿命のcalibrationを行う方法を検討した。その結果、培養器内の細胞密度が適切で温度一定の条件では、この方法でcalibrationが可能であることが明らかになった。現在、細胞種を変えて、同様の方法が適用可能であるか検討中であり、おおむね順調に目標が達成されている。 中川は、活性イオウ化合物に関する摂動型ツールについて、紫外線(UVA)制御可能な化合物を開発し、さらに、培養細胞に応用できるよう細胞膜透過性を高めた誘導体へと改良することも行った。この化合物は、実際に細胞レベルでH2S放出量・タイミングを制御可能であった。また、NOに関する摂動型ツールについても、同様に培養細胞系で応用可能な可視光制御型化合物の開発に成功した。以上のように、摂動型ツール開発については順調に研究が進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
浦野は、平成26年度に確立することに成功した分子間求核付加に基づく分子設計法に則り、グルタチオンやsulfane sulfurを選択的に検出可能な蛍光プローブの開発を目指す。特に前者に関しては、まず至適Kdを有するプローブを開発し、それをさらにFRET型としたプローブを開発することで、細胞内濃度のリアルタイム定量の実現を目指す。開発予定のプローブは、A01、02班の研究にすぐに活用可能であり、かつ極めて重要な知見を与えうることから、出来るだけ早期にこれを実現し、酸素生物学研究全体の進展に寄与するよう努力する。 飛田は、細胞・組織内の低酸素環境を高感度でイメージングできるイリジウム錯体を設計・合成するとともに、イリジウム錯体を発光プローブとして、細胞・組織内の酸素濃度分布をイメージングする技術を開発する。この目的を達成するための装置として、顕微鏡下で2次元りん光寿命画像の取得を可能とするりん光寿命イメージング(phosphorescence lifetime imaging; PLIM)システムを構築する。同時に、平成26年度に検討した培養生細胞を用いてりん光寿命を酸素濃度あるいは酸素分圧に変換するための定量法の検討を進める。 中川は、平成26年度までに、光制御型H2S放出化合物および光制御型NO放出化合物について、培養細胞に応用可能な化合物の開発に成功していることから、これらの化合物の応用可能性を共同研究として検証して行くことで、本新学術領域研究全体の発展に寄与していく。またこれらの化合物の光反応性に関する知見を基に、酸素との反応性を光制御可能な化合物について分子設計を進める。これにより、摂動型ツールの有用性が大幅に高まると考えている。
|