計画研究
浦野は、昨年度開発することに成功した分子内スピロ環化を動作原理とするサルフェンサルファー検出プローブの細胞応用を行い、生細胞で可逆的なサルフェンサルファー検出が可能であること、また薬剤処理によるアストロサイト初代培養系でのサルフェンサルファー濃度とカルシウム応答の同時イメージングを達成し、論文公表した。さらに全く新たな分子間求核付加反応を鍵反応とすることで、GSHとはほとんど反応しない一方で、サルフェンサルファーの中でもハイドロパーサルファイトと選択的かつ可逆的に反応する新規蛍光骨格の開発に成功した。飛田は、本研究で開発した水溶性りん光プローブ(BTP-PEG)とりん光寿命測定システムを用いて、南学班と協力してマウスの膀胱尿酸素分圧を計測した。その結果、膀胱尿酸素分圧は通常の状態では39 mmHgと既報と一致した結果が得られた。また、両側尿管結紮により酸素分圧が51mmHgまで上昇する一方、その後10%酸素吸入により41mmHgに低下したことから、尿酸素分圧は腎及び膀胱壁の両者の酸素化の影響を受けることが明らかとなった。さらに共焦点りん光寿命イメージング装置を用いて、りん光プローブBTPDM1を投与したマウスの腎表面から約10μmの近位尿細管のりん光寿命を高分解能で画像化することに成功した。中川は、これまでの検討結果に基づき多数の二重結合共役部を有するシアニン色素を利用した光活性化型酸素反応剤を設計、合成した。合成したシアニン色素を溶解し吸収波長域である赤色光を照射し溶存酸素消費を検討したところ、酸素消費がみられたが多様なシアニン色素分解物が生成し系が複雑になることが判明した。H2S2およびHS2Cys放出化合物開発のため、光解除制保護基を有する前駆体を合成した。光制御型NO放出化合物の病態モデルへの応用のため、新たに黄緑色光制御可能なNO放出剤を開発し論文発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
浦野は、昨年度に開発した分子内スピロ環化を原理とするサルフェンサルファープローブの細胞応用を達成しただけでなく、末端にSSH構造を有するハイドロパーサルファイト類の高選択的検出を可能とする、全く新たなプローブ骨格の開発に成功した。本プローブのGSHとRSSHに対するKd値には10,000倍の差が見られ、またRSSHに対して秒オーダーかつ可逆的な応答が見られたことから、本新学術領域の中心的な課題の一つである活性イオウ種の生物学的意義解明に取り組むプローブとして世界初の画期的な特性を有している。このように本研究計画は、当初の計画以上に進展していると言える。飛田はイリジウム錯体の特性を生かした酸素プローブの設計・合成を進めるとともに、生体組織内の酸素濃度分布を高分解能で画像化するイメージング技術の開発を進めている。脂溶性の高いプローブを投与することにより、マウスの腎臓組織や腫瘍組織内の酸素濃度分布をりん光寿命分布として画像化することができた。培養細胞を使った寿命のcalibrationにより、りん光寿命画像を酸素濃度分布画像に変換することができつつあり、おおむね順調に目標が達成されている。中川はシアニン色素を利用した光活性化酸素反応剤(酸素消費剤)を設計し、水溶性やπ電子系の電子密度が異なる複数の誘導体の合成に成功し、それぞれ酸素消費実験を行うことに成功したことから、研究計画に照らして計画通り進捗した。活性イオウ研究用摂動型ツールについて、前駆体となる中間体化合物の合成・取得に成功しており、目標化合物の最終合成には達しなかったものの一定の進捗が見られた。NO摂動型ツールについては、段階的に臨床応用に適した化合物の開発へと進展しており、より生体透過性が高く生体傷害性が少ない光で制御可能となったことから、着実な進展があったと言える。これらの研究結果から概ね順調に進展しているといえる。
今後もA03班では、参画研究者が持つ独創性の高いプローブ設計法を駆使して、酸素生物学の新たな推進を可能とさせるプローブと計測技術を開発していく。まず浦野は、開発したハイドロパースルフィド選択的検出蛍光母核を活用し、生細胞内のハイドロパースルフィド濃度を定量可能なFRET型蛍光プローブを開発する。さらに開発済みのグルタチオン検出可逆型蛍光プローブと組み合わせ、赤池班と密接に協力して細胞内の活性イオウ種ダイナミクスを詳細に検討し、本新学術領域の中心的な課題の一つである活性イオウ種の生物学的意義解明に取り組む。飛田は、導入した共焦点りん光寿命イメージング装置と開発してきた細胞内酸素プローブあるいは水溶性酸素プローブを用いて、南学班と協力してマウス腎臓の酸素化状態の高分解能イメージング技術の確立を目指す。りん光寿命画像の測定技術の向上とともに、得られたりん光寿命画像を酸素分圧に変換するためのcalibration法の検討を引き続き行う。また、組織全体の酸素分布を明らかにする目的で、細胞内とともに毛細血管中の酸素分圧を定量できる水溶性プローブとして、イリジウム錯体を内包した血中滞留性の高いリポソームの開発、イリジウム錯体を結合したデキストランの合成を行う。中川は、シアニン色素を用いた化学量論的な酸素消費剤による光酸素濃度調節は難しいと考えられたため、次年度は触媒的酸素消費が可能なテルロローダミン誘導体を設計合成し、共還元剤であるグルタチオンと組み合わせることで、光依存的酸素消費反応がおこるか検証する。将来的には本剤を細胞外に滞留させ光酸素濃度調節を実現する。光制御型ポリスルフィド放出化合物では、H2S2、HS2Cysのケージド化合物化を行い、ポリスルフィドの光制御を実現する。光制御型NO放出化合物は近赤外制御可能な化合物へと改良し病態モデル(とくにED)への応用を検討する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (20件) (うち査読あり 20件、 謝辞記載あり 7件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (32件) (うち国際学会 13件、 招待講演 17件) 産業財産権 (1件)
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