研究領域 | 酸素を基軸とする生命の新たな統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
26111012
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浦野 泰照 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (20292956)
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研究分担者 |
飛田 成史 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30164007)
中川 秀彦 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 教授 (80281674)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 蛍光プローブ / リン光プローブ / ケージド化合物 / 活性イオウ種 / 酸素プローブ / イリジウム錯体 / ガス状メディエーター |
研究実績の概要 |
浦野はまず、昨年度までに開発したサルフェンサルファープローブを活用した国際共同研究を遂行し論文発表を行った。また昨年度開発したハイドロパーサルファイト(RSSH)の選択的かつ可逆的な蛍光プローブの細胞応用を目指し、FRETを原理とするratiometricプローブを新たに開発した。本プローブはRSSH濃度の生細胞内でのリアルタイム定量が可能であることが明らかとなり、各種刺激に応じて細胞内のRSSH濃度が変化する様を可視化定量することにも成功した。 飛田は、A01班と協力して、マウスの腎臓の酸素化状態を高分解能でライブイメージングすることに成功した。脂溶性のIr(III)錯体BTPDM1をマウスの尾静脈に投与し、りん光寿命イメージング顕微鏡(PLIM)を用いて腎臓表層のりん光寿命画像を撮ることにより、尿細管細胞内の酸素化状態を画像化することができた。一方、水溶性のIr(III)錯体BTP-PEG (PEG: polyethylene glycol)を新たに合成し、BTPDM1とともにマウスに投与したところ、尿細管細胞に加えて尿細管周囲の血管および尿腔のりん光寿命画像を同時に取得することができた。 中川は、テルロローダミンの反応性に基づいてセレノローダミンが好気下において光依存的に酸化されグルタチオン依存的に還元されることを見出し、テルロローダミン及びセレノローダミンとグルタチオンの共存により水溶液中効率的な光依存的酸素消費を実現した。さらにこれを低濃度で培養細胞に適用することで、細胞培養系での光酸素消去が可能であることを示した。培養細胞での検証には飛田が開発した酸素プローブを活用した。シリルローダミンを用いることで近赤外光制御型NO放出化合物を開発した。NO放出剤の反応機構を発展させ光制御過酸化水素放出剤を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
浦野は、GSHとRSSHを選択的に区別してリアルタイム可視化定量可能な蛍光プローブをそれぞれ開発することに成功し、秒オーダーでの細胞内濃度変化を可逆的に観測することに成功したことから、本新学術領域の中心的な課題の一つである活性イオウ種の生物学的意義解明に取り組むことを可能とする世界初の蛍光プローブ群の開発に成功した。 飛田はりん光計測に基づくin vivo酸素プローブの開発が順調に進み、従来の細胞内酸素プローブに加えて血中酸素プローブも開発できつつある。PLIM法を用いた計測に最適な寿命やスペクトルをもつプローブを開発することにより、これまでにない高分解能で臓器組織内の酸素をライブイメージングする技術が確立しつつあり、順調に目標が達成されている。 中川は当初計画に基づいてテルロローダミンを新たな色素骨格として採用することで触媒的酸素消費反応を応用することに成功し、さらにこれまであまり光依存的酸化還元性能が評価されていなかったセレノローダミンの酸化還元性質を精査することでテルロローダミンよりも優れた光依存的酸素消費を実現できることを見出した。また、NO放出剤については当初の分子設計通りに化合物を合成・評価することで、当初想定した性能を有する化合物を開発できた。 以上のように本研究計画は、おおむね順調に目標が達成されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後もA03班では、参画研究者が持つ独創性の高いプローブ設計法を駆使して、酸素生物学の新たな推進を可能とさせるプローブと計測技術を開発していく。まず浦野は、昨年度までの研究で開発した、グルタチオン、ハイドロパースルフィドをそれぞれ特異的かつリアルタイムに検出・濃度定量可能なFRET型蛍光プローブを、より明るくStokesシフトの大きなプローブへと改良を施し、本新学術領域の中心的な課題の一つである酸化ストレスなどの酸素生物学関連事象のin vivo可視化解析の実現を目指す。もちろん開発したプローブは、計画班、公募班研究に速やかに提供し、酸素生物学研究全体に貢献することも常に意識して研究を遂行する。 飛田は、A01班と協力して、水溶性および脂溶性イリジウム錯体を投与した健常マウスおよび腎疾患マウスの腎表層組織の蛍光寿命画像、りん光寿命画像を測定し、腎組織内の酸素化状態と腎疾患の関係を明らかにする。また、マウスの肝臓の高分解能りん光寿命画像を測定し、肝小葉内の酸素濃度勾配、アンモニア負荷による肝小葉内の酸素濃度勾配の変化をイメージングする。これらの実験を通して、イリジウム錯体をプローブとするin vivo酸素計測技術の実用化を目指す。 中川は、テルロローダミン及びセレノローダミンの反応性に基づく光活性型酸素反応剤を引き続き開発する。これらのローダミン類が高濃度で細胞毒性を呈したことを踏まえて、細胞毒性の低減を目指してナノ粒子にテルロローダミンを封入し、グルタチオン添加と組み合わせることで光制御酸素濃度低下を検証する。また別の検討として、高水溶性官能基(スルホン酸等)を有する化合物について検証する。光制御型NO放出化合物に酵素反応部を導入し条件活性化型光制御NO放出剤を開発する。
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