計画研究
1. ソングバードに属する鳥類はヒトと同様に生後発達の過程で模倣により複雑な音声を獲得する。発達期の社会的接触の程度により音声学習の効率が変化することから、発達期の社会的接触と相関のある遺伝子群の解析を行った。さらにこれらの遺伝子群の発現調節に関わる転写因子群およびシグナル伝達経路について解析をおこなった。2. 神経活動(活動電位)パターン生成プロセスを明らかにするためには、上流からのシナプス入力を解析することが重要である。自由行動下の生体からの神経活動計測に用いられてきた従来の細胞外記録では閾値以下の微弱なシナプス電位は計測不可能である。そこでソングバードのさえずりを妨げないような小型軽量の細胞内記録技術の開発を行った。3. 聴覚依存的な音声スキルの学習制御に重要な基底核AreaXは皮質-線条体投射型ニューロン(HVCXニューロン)から入力をうける。音声スキルの獲得と固定化におけるHVCXニューロンの役割をあきらかにするために、光感受性物質(Chlorin)に特定波長の光(670 nm)を照射するとスーパーオキシドが発生することを利用して、本光感受性物質を逆行性にHVCXニューロンに導入し、光照射によりHVCXニューロンを選択的に破壊する手法の条件検討をおこなった。
1: 当初の計画以上に進展している
模倣による音声学習を実験室の環境で容易に観察可能なソングバードで得られた知見をヒトの言語獲得にも重要な社会学習の神経機構の理解に繋げるためには、神経回路連絡に加えて可塑性の分子基盤を明確にすることが重要である。発達期の社会的接触と相関のある遺伝子群の発現制御について多くの知見が得られ、社会学習によるスキルの獲得と固定化を媒介するシグナル分子について多くの知見を得ることができた。本研究課題では行動スキルの獲得から維持への神経回路の機能的シフトを明らかにするために細胞内シグナル動態のイメージングを予定しているが、注目すべきシグナル伝達経路が明確になりつつある。また自由行動下の生体からの細胞内記録技術を確立することにより、回路機能の適応性変化についてより詳細を研究することが可能となった。さらに分子遺伝学的な回路操作が困難な鳥類で経路選択的な神経細胞破壊技術を確立することにより、各神経経路が音声スキルの学習から維持へ至る機能シフトにどのように関わっているか明確にすることが期待できる。
本研究課題実施に必要となる神経回路解析技術が確立し、これらの技術を使った実験が順調に進展している。脳深部イメージングの条件検討を行い、音声の獲得から維持への回路機能シフトに関与する神経可塑性の解析に適用する。鳥類の音声制御系と相同な回路構築をもつ哺乳類の大脳-基底核回路に注目して、マウスの行動実験系およびイメージングの実験条件を検討する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件)
Scientific Reports
巻: 5 ページ: 7853
10.1038/srep07853
Frontiers in neural circuits
巻: 8 ページ: 110
10.3389/fncir.2014.00110