計画研究
1. ヒトと同様に生後発達の過程で模倣により複雑な音声を獲得するソングバードは、発達期の社会的接触の程度により音声学習の効率が変化する。H26年度にひきつづき、ソングバードをモデル動物として、発達期の社会的接触と相関のある遺伝子群の解析を行った。さらにこれらの遺伝子群の発現調節に関わる転写因子群およびシグナル伝達経路について解析を進めた。次にシグナル分子の動態を解析する目的で、マウスよりも小型なキンカチョウやジュウシマツ(体重は15g以下)に、独自に開発した顕微内視鏡が設置可能なように超軽量のマイクロドライブ(約1g)を開発した。2. ソングバードの音声制御系神経回路の中では、特に前運動領域HVCに聴覚系より強い投射があることが知られている。興味深いことに、HVCへの聴覚入力は、覚醒レベルや社会的状況によって調節をうける。例えばステレオタイプな音声を特徴とするキンカチョウでは、覚醒時にはHVCへの聴覚入力が遮断される。さらに音声パターンが多様に変化するジュウシマツでは、社会的状況に応じてHVCが自己の音声に似た聴覚刺激に対して応答するミラーニューロン的な応答が観察される。このような覚醒レベルや社会的状況による音声制御系神経回路への聴覚入力に関する調節は、音声制御系神経回路の機能維持や音声コミュニケーションにおける認知プロセスと関わっていると考えられるがそのメカニズムや生理的意義について詳細は不明である。昨年度開発した細胞内記録技術を使って、HVCの神経細胞で細胞内記録を実施し、閾値以下のシナプス入力レベルの解析を実施した。
1: 当初の計画以上に進展している
模倣による音声獲得を容易に観察できるソングバードで得られた知見をヒトの言語のような高度なスキル獲得の神経機構に繋げるためには、社会学習に重要な神経回路基盤、可塑性の分子基盤を明確にすることが重要である。昨年度にひきつづき、発達期の社会的接触と相関のある遺伝子群について解析をすすめるとともに、これらの分子群の動態を正確に定量化するための技術開発にも取り組み、完成しつつある。社会学習や高次の認知行動課題に必要となる自由行動下でのイメージング技術の条件検討も順調に進んでいる。現在では、自由行動下のマウスでは脳深部からCa2+イメージングすることが可能な状況になっている。さらに細胞内シグナル動態を計測する為に長時間イメージングを安定して実施する条件が見つかれば、音声スキルの学習から維持へ至る機能シフトに関与する神経細胞を明確にすることが期待できる。
本研究課題実施に必要となる電気生理学技術、イメージング技術の開発が順調に進展している。ソングバードに加えて、ソングバードの音声制御系と相同な神経回路構築を特徴とする哺乳類(マウス)の大脳皮質-基底核神経回路を対象として、オペラント学習による回路シフトの研究をスタートさせる。行動課題としては、磯村班が開発したレバープレス課題にくわえてタッチスクリーン課題の条件検討を行う。Ca2+イメージングに加えて、FRETバイオセンサーに対応するイメージングを行うことで、オペラント学習中の細胞内シグナル分子の動態と神経活動の可塑的推移の関係を解析する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.
巻: 112 ページ: 7599-7604
10.1073/pnas.1413484112
Neuroscience
巻: 308 ページ: 115-124
10.1016/j.neuroscience.2015.09.014