研究領域 | 行動適応を担う脳神経回路の機能シフト機構 |
研究課題/領域番号 |
26112007
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邉 大 京都大学, 医学研究科, 教授 (90303817)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | ソングバード / 社会学習 / 基底核 / オペラント学習 |
研究実績の概要 |
以下の2課題を実施した。 A. 社会学習による音声スキルの獲得と固定化を媒介する神経回路制御の解明: 本研究項目では、ウイルスベクターおよび分子遺伝学的手法により遺伝子導入を行い、神経可塑性シグナル動態についてin vivoイメージングおよび定量的解析を行う技術を開発し、さらにこの技術により社会的接触により誘導される各種神経可塑性シグナルの推移について、音声学習に関与する大脳-基底核神経回路を対象に解析することを目的としている。本年度は、研究代表者らが開発した内視顕微鏡による自由行動下の動物個体からのイメージングで問題となるケーブルのねじれを解消する機構を組み込んだ光学系の開発を行った。その結果、自由行動下で視覚弁別課題を遂行中の動物個体からのイメージングを長時間安定して実施することに成功した。さらに自由行動下でのイメージングで問題となる体動や脳の拍動に伴う動きを補正する手法として、マルチカラーイメージングを実施し、Ca2+イメージング時の細胞の動きを補正する技術の開発に成功した。 B. オペラント学習と社会学習での回路動作の共通点や相違点の探索: 行動選択・スキル学習に関する行動学的実験系により、げっ歯類モデル生物の大脳皮質-基底核の解析を進めた。項目Aにより改良した内視顕微鏡により、Ca2+イメージングおよびFRETイメージングを実施し、神経活動と神経可塑性と関連の深いERK(細胞外シグナル調節キナーゼ, Extracellular Signal-regulated Kinase)活性動態について解析した。さらに光遺伝学あるいは化学遺伝学的な神経回路操作を適用し、回路動作と行動との因果関係について解析を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記研究項目Aにより内視顕微鏡イメージングの改良に取り組んだ結果、視覚弁別課題を遂行中の個体の基底核でのCa2+イメージングおよびERKイメージングを長期間安定して実施することが可能になった。 中脳ドパミン神経細胞の発火が報酬予測誤差を表現するとのSchultzらの報告以来、強化学習理論は行動スキル獲得の神経回路機構を理解するための重要なモデルとなっている。一方、ドパミンを介して報酬予測誤差情報を受け取る線条体がドパミンに応じてどのようにその特性を変化させるか興味を持たれている。線条体の投射ニューロンである中型有棘細胞 (MSN) はその投射パターンから直接路型および間接路型に分類することが可能であるが、それぞれドパミン受容体1型および2型を発現しており、ドパミン入力により可塑性に深く関与するERK活性が異なる制御をうけると考えられている。またERKは神経活動依存的な可塑性の誘導のみならず、様々な細胞機能にも関与し、基質に対する特異性も弱い。このような非特異的なERKの活性化により神経活動依存的な転写制御が的確に行われるためには、ERK活性の動的パターンが重要であると考えられているが、その詳細は不明である。内視顕微鏡により視覚弁別課題遂行中の直接路型MSNからERKイメージングを実施したところ、内視顕微鏡視野内のMSNのERK活性化パターンを細胞毎に観察することが可能となった。観測されたERK活性化パターンが、線条体への中脳ドパミン軸索の投射パターンから従来予想されたものとは異なるという興味深い結果を得た。今後、ERK活性化パターンとCa2+イメージングのデータを合わせて解析することで、行動スキル学習に伴う線条体神経回路における神経情報の推移と関与する細胞内シグナル動態について多くの知見が得られると期待できる。 以上により、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
マウスでのオペラント学習等における生体での細胞イメージング実験については、昨年度に引き続き、げっ歯類を用いた実験系で実績のある本領域計画班である磯村グループ、藤山グループに協力を仰ぎながら研究をすすめる。 内視顕微鏡イメージングに関しては、直接経路型MSNに加えて、間接経路型MSNからの計測を実施し、行動スキル学習に伴う線条体神経回路における神経情報の推移と関与する細胞内シグナル動態に関して包括的に研究をすすめる。また同技術を大脳皮質(特に前頭前野)へ適用し、大脳-基底核間の回路動作の理解へつなげていく。 また従来より進めていた電気生理学的手法による神経活動計測、光遺伝学・化学遺伝学的回路操作による大脳-基底核回路の計測・解析も合わせて展開する予定である。
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