計画研究
2頭のサルの両側の運動前野、一次運動野、一次体性感覚野にそれぞれ15チャンネルの皮質脳波電極を慢性的に留置し、到達―把持運動時の活動を、頚髄レベルでの皮質脊髄路の損傷前、損傷後の訓練による回復過程においてそれぞれ損傷後約300日及び160日間にわたって持続的に観察した。そして得られた30チャネル、毎日30試行の到達―把持運動の各周波数帯域の活動というbig dataについて、次元圧縮の手法を用いて解析したところ、大別して2種類の回路によって全体の活動様式が説明できることがわかった。その回路とは1.使用肢反対側(脊髄損傷の反対側)の運動前野から一次運動野に向かうGranger因果を示す回路で、運動の遂行中に80-120Hzのγ帯域を中心とする活動を有するもの2.使用肢反対側の運動前野及び一次運動野から使用肢同側の運動前野及び一次運動野へ向かうGranger因果を示す回路で、運動の開始直前から運動時にかけて20-30Hzのβ帯域を中心とする活動を有するもの、であった。そしてこれらの回路成分のうち前者は脊髄損傷直後に一時的に増強されるが回復の過程で減衰する。そして回復の安定期に再びやや増加する。それに対して、後者は回復の進行とともに増強され、回復の安定期に入ると次第に減衰してくることが明らかになった。これらの結果は同様な損傷後の機能回復過程の脳活動を陽電子断層撮影装置(PET)を用いて解析した結果(Nishimura et al. 2007)をよく説明している。すなわち、このときの脳活動は回復初期に両側の運動野の活動が増加するが、その後、減衰し、両側の運動前野及び損傷反対側の活動の増加というパターンに収束するというものだった。今回の結果は、このような過程における損傷同側の運動野の活動増加が損傷反対側からもたらされていること、及び回復安定期に両側の運動前野の活動が増加することもまた、交連性の経路によってもたらされている可能性が強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度に全脳ECoGの手術を試みたが、術後の脳浮腫のため、実験を中止せざるを得なくなった。全脳ECoG技術の開発にはもうしばらく時間を要すると判断し、技術開発を薦めながら、一方で部分的な脳部位に留置した電極から得られる大規模データに対して先端的解析法の開発に目標を移し、大変興味深い結果を得ることができた。
今後再度チャネル数を増加させ、脳のより広い範囲からのECoG記録を可能にし、今回開発された次元圧縮法による重要回路の抽出とその動的変化の解析に邁進すれば、大変挑戦的だった当初目標が達成できると考えている。一方、今回の結果から反対側運動野から同側に向かう信号を形成する回路が回復過程とよく相関することから、今後、この経路を物理的切断ないしはウィルスベクターによる方法で選択的に遮断することで回復した運動が阻害されれば、このような大規模回路の動態変容と機能回復の因果関係を立証することが出来る。
上記の内容「リハビリテーションは脳の配線を変え、機能の回復を導く」は、Ishida et al. (J Neurosci 2016)に関するもので、主要全国紙を含め全国47紙と1テレビ局にて報道されました。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 7件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
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http://www.nips.ac.jp/release/2016/01/post_311.html