研究領域 | 行動適応を担う脳神経回路の機能シフト機構 |
研究課題/領域番号 |
26112008
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊佐 正 京都大学, 医学研究科, 教授 (20212805)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 大規模脳回路 / 脊髄損傷 / 機能回復 / 把持運動 / デコーディング / 運動野 / 脊髄固有ニューロン / サル |
研究実績の概要 |
1頭のサルの両側の運動前野、一次運動野、一次体性感覚野にそれぞれ15チャネルの電極を留置し、さらに15種類の手指も筋肉の筋電図記録電極も慢性的に留置し、到達ー把持運動時の脳と筋の活動を、頸髄レベルでの皮質脊髄との損傷前後160日間にわたって持続的に記録・観察した。その過程で、回復初期に傷害と同側の一次運動野の運動時の活動がγ帯域で上昇することが分かった。そこでこの活動が同側の手指の筋活動に関する情報を有しているかどうかをdecodingしたところ、相関係数0.9程度で筋活動を推定できることが明らかになった。以上の結果は、機能回復過程において、同側の一次運動野が一過性に筋活動を比較的直接的に制御することが示唆された。
また、上記のサルの頸髄レベルでの皮質脊髄路損傷モデルにおいて、機能回復に脊髄固有ニューロン(PN)系が関与するかどうかを明らかにするために、ウィルスベクター2重感染により経路選択的にTetシステムによる破傷風毒素の発現制御法を適用したPNの遮断と、脊髄損傷を組み合わせた。すると持続的にPNを遮断した2頭のサルにおいては、精密把持の回復が途中で止まり、3-4カ月経過してもPNを遮断しないサルに比べて明らかに回復が悪かった。それに対して、脊髄損傷からの回復の過程ないしは回復後にPNを一過性に遮断した4頭のサルにおいては、その効果は予想より小さかった。以上の結果から、PNは回復の初期には重要な役割を果たすが、一旦回復が起きると、その寄与は一部となり、他の経路も回復に関わることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脊髄損傷からの機能回復過程における大規模回路記録による脳情報の再統合過程が観察・解析できるようになった。また、ウィルスベクターによる回路特異的機能修飾技術を脳・脊髄損傷後の機能回復過程にある動物に適用することで、機能回復における特定回路に役割を明確に解析できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は一次視覚野損傷後の視覚―運動変換の機能回復過程に対しても、ECoGによる大規模記録法とウィルスベクターによる経路選択的操作技術や大規模計算による回路動態の解析法を適用して、適応回路シフトの回路機構を明らかにしていきたい。
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