研究領域 | 行動適応を担う脳神経回路の機能シフト機構 |
研究課題/領域番号 |
26112010
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
相澤 秀紀 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 教授 (80391837)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | モノアミン / ストレス / 回路シフト / ドーパミン / セロトニン / ボルタンメトリ |
研究実績の概要 |
拘束や恐怖等のストレス環境におかれた動物は「すくみ」や回避といった受動的行動もしくは「もがき」や攻撃などの能動的行動のいずれかを二者択一的に示す。これらはストレス対処行動の基盤を形成するものの、これらの適応行動を担う神経回路のシフト機構は不明なままである。これまでの研究から遺伝子改変実験の結果、側坐核におけるドーパミン受容体1型の欠損により、尾懸垂ストレスにおける能動的ストレス対処行動へ行動選択がシフトすることが明らかとなっている。これらの結果は、細胞外ドーパミン放出がストレス対処行動の決定に重要な役割を果たすことを示唆している一方、その動態についてはいまだ不明な点が残されている。この問題に取り組むため、平成29年度は、前年度までに確立した電気生理・電気化学的測定技術を応用し、モノアミン神経系およびその制御経路の機能障害がストレス下における神経回路機能や動物行動に与える影響について検討した。具体的には主に以下の3つの課題に取組んだ。 ①ドーパミンの一過性および持続性放出動態の解明。高速スキャンボルタンメトリ法と吸着ボルタンメトリ法を用いて脳内各部位におけるドーパミン放出の相対濃度および絶対濃度変化を経時的に解析することに成功した。 ②セロトニン神経系のストレス対処行動における活動様式の解析。ドーパミン放出に応用されてきたボルタンメトリ法を脳各部位のセロトニン測定に応用するため、国際活動支援のもと、サウスカロライナ大学と共同研究を行った。 ③ストレス負荷による行動障害とその回復様式の解析。慢性社会的敗北ストレスモデルを用いて野生型C57BL6/J系統マウスへストレス負荷を行い、回避行動における経時的変化を観察した。解析の結果、同じ野生型群の個体の中に経時的に回復するグループと、回避傾向を持続的に示すグループを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、慢性社会的敗北ストレスによる受動的行動シフトからの回復モデルを行動学的に明らかにし、新たな実験系を確立した。また、ドーパミン放出の絶対値測定を可能にするとともに、細胞外へのセロトニン放出量の測定が最適化され、国際共同研究によりモノアミン測定の技術的進展が得られた点は大きな前進といえる。現在研究成果の一部は学術論文として投稿中であり、追加実験による研究拡充により、その成果を広く発信する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、前年度までに確立した、ストレス負荷による行動障害の回復機構に焦点をあて、その回復過程にモノアミンの制御経路が果たす役割を明らかにする。具体的には、慢性社会的敗北ストレスによる受動的行動の回復を促す神経回路修飾法を化学遺伝学や光遺伝学的手法を元に開発する。受動的行動はうつ病様の行動異常の基盤であり、予測される研究成果は、ヒトうつ病の病態生理の理解を促進するとともに、うつ病の治療法開発に新たな道を開くものと期待される。 また、慢性社会的敗北ストレス負荷に対して一時的な行動異常を示した野生型動物においても、相当数の動物が時間とともに適応し行動上正常な反応を示すことが明らかとなっている。本研究による遺伝子改変および神経生理学を組み合わせた成果は、これらの適応行動の背景にある脳の回路シフトを見出す研究であり、新たな学域の形成に貢献するものと考えられる。
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