研究実績の概要 |
社会的・物理的ストレスに暴露された動物は、回避や闘争などの意思決定によりストレスに対処することで生存に有利な戦略を選ぶと考えられる。これまでの研究から1)急性及び慢性ストレス下におけるストレス対処行動は手綱核の活性化により受動的パターンへとシフトすること、2)手綱核の活性化は中脳ドーパミン及びセロトニン産生細胞の活性化を抑制することが明らかとなっている。これらの研究結果は手綱核がストレス適応行動において重要な役割を果たすことを示唆しているが、外的ストレスが手綱核の活動に与える影響については不明な点が残されている。この問題に取り組むため、平成30年度は、ストレス対処行動を受動的パターンにシフトさせる慢性社会的敗北ストレスモデルマウスを用いて、手綱核におけるストレス反応性について検証した。具体的には、主に以下の2つの課題に取り組んだ。 1)慢性社会的敗北ストレスが手綱核及び大脳辺縁系の神経炎症に与える影響 近年の研究では、急性拘束ストレスが海馬をはじめとする大脳辺縁系の炎症性変化を惹起することが知られている。このような神経炎症性変化が受動的ストレス対処行動と相関するかを調べるため、微小脳領域から向炎症性サイトカインを検出するcytometric beads array法を用いて検討した。実験結果によると、慢性ストレスにより、扁桃体や外側手綱核、腹側海馬などの大脳辺縁系においてIL-1b, TNFaなどの有意な上昇を観察した。 2)慢性社会的敗北ストレスが手綱核の細胞外環境に与える影響 遊走性細胞や細胞外基質などの細胞外環境の変化は、血管透過物質やサイトカインの神経細胞への作用により、神経回路機能を大きく左右する。慢性ストレス下において受動的行動パターンを示すマウスの外側手綱核では単球由来の遊走性細胞の遊走や細胞外基質分解酵素の活性化が有意に上昇していた。
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