計画研究
細胞内に存在する顆粒状構造体は、特定のノンコーディングRNA(lncRNA)を骨格として形成されるものが知られている。本研究では、この構造体の形成を担うlncRNA(=arcRNA)が、どのようなメカニズムでこの機能を発揮しているのかを明らかにすることを目標にしている。廣瀬は、核内構造体パラスペックルの骨格として働くNEAT1 lncRNAの構造形成に重要な配列要素(=作動エレメント)を同定するために、前年度までにゲノム編集技術を用いて、ヒトハプロイド培養細胞においてゲノム中のNEAT1を効率よく変異導入する系を確立した。本年度は、作動エレメントの同定に向けたNEAT1 RNAの変異体作成を推進した。その結果80種類を超える多数の変異体を作成することができ、これらの細胞における核内構造体パラスペックルの観察、NEAT1 RNAの蓄積量の定量解析の結果、パラスペックル形成に関わる作動エレメントを含むRNA領域を複数同定することに成功した。興味深いことに同定した領域の機能3種類に大別でき、これまで同定した必須タンパク質の3つの機能にそれぞれ対応する役割を果たしていることが示された。これによってRNAドメインとタンパク質の協調によってarcRNA機能が発揮されていることが示された。この他にも、新しいarcRNAの探索で新しいRNA候補を複数発見した。分担者の富田は、U6 snRNAの3’末端の成熟化に関与するポリU付加酵素の結晶化、およびその初期位相の決定に成功し、構造の精密化を行った。並行して、構造をもとにしたin vitroでの生化学機能解析を行い基質特異性の分子基盤を明らかにした。現在、in vivoでの生理的意義機能解析のため、Cas9システムを用いたポリU付加酵素の遺伝子破壊株の作成を進めている。また、特定の前駆体miRNAの5’末端リン酸基をメチル化することによって、その後のDicerによる成熟化miRNAへのプロセシングを抑制するRNAメチル化酵素に強く結合するncRNAを見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、ゲノム編集技術を用いたノンコーディングRNAの変異体解析が、予想以上に大きく進展し様々な有用な情報を得ることができました。また変異体解析を基にした作動エレメントの解析も順調に進んでいる。さらにはあたらしいarcRNAの同定を目指したスクリーニング作業も進展し、複数の候補を得ることに成功した。また分担者との共同研究による核内構造体形成のキーとなるRNA結合タンパク質の立体構造予測から、構造体局在に必要なアミノ酸残基を同定することができたことなど班内連携も順調である。以上を総合して、当初の計画以上に進展したと判断できる。
本年度進展した複数の研究項目をさらに発展させて、作動エレメントの絞り込み、相互作用因子の解明、さらには構造体を介した遺伝子発現制御機構の解明に向けて、分担研究者と密に連携を保ちながら研究推進していく予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 8件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 4件、 招待講演 5件) 図書 (1件)
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