計画研究
代表者の廣瀬は、細胞内構造体構築を担うarchitectural RNA (arcRNA)タクソンの確立を目指した。第一に、パラスペックル構造体のarcRNA、NEAT1の作動エレメントを明らかにするために、CRISPR/Cas9ゲノム編集とヒトハプロイド細胞株を組み合わせて、200種類ものNEAT1変異体を作成し、NEAT1のモジュラードメイン構造を明らかにした。特にパラスペックルのアセンブリーに関わるNEAT1中央ドメイン中には、3種類のサブドメインが存在し、これらはパラスペックル形成の必須タンパク質、NONO-SFPQダイマーの機能的相互作用部位であり、この相互作用を起点としてパラスペックル形成が開始されることが明らかになった(論文リバイス中)。第二に、arcRNA機能の一般性を証明することを目指して、ヒトゲノムが産生する新たなarcRNAの探索を行った。まずarcRNAが通常のRNA抽出法に対して著しい難抽出性を示すことを発見し、この性質をもつRNAを次世代シーケンス解析で探索したところ、50種類以上の難抽出性RNAを同定した。さらに発現量の高い10種類が未同定の核内構造体に局在しており、arcRNA候補となることを明らかにした(EMBO J 2017)。この他に海外グループと癌促進因子としてのNEAT1の機能を明らかにした(Gene & Dev 2017)。分担者の富田は、Lin28依存的 pre-let7 RNAのウリジル化酵素(TUT4/7)の活性部位、Lin28との作用部位の構造を決定した。さらに tRNAHisの5’リン酸基メチル化酵素(BCDIN3D)の結晶化、U6 snRNAのメチル化酵素(METTL16)のC末領域の結晶化に成功し、~3.5Aの回折データを得た。また領域内共同研究で、tRNAの特定部位をリン酸化する新規酵素の構造決定に成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで遂行してきたゲノム編集によるNEAT1作動エレメントの探索によって、複数の機能ドメインが協調的に機能獲得していることが明らかなり、特にそこに機能的に相互作用するタンパク質を同定し、その作用機構を明らかにできたことによって、特定の作動エレメントによるarcRNA機能の基盤的分子機構が明らかになり始めた。またarcRNAタクソンに属する新規lncRNA分子の探索法を開発し、実際に新しいarcRNA候補を取得した。これによって、本研究が目指していた作動エレメントの同定とそれをもとにしたタクソンの確立という2つの目標の要が実現できる見通しが立った。
最終年度を迎え、arcRNAのタクソン確立の最終段階として、前年度までにNEAT1 arcRNAによるパラスペックル形成をモデルに明らかにしてきたarcRNA作動エレメントによる作動装置形成の分子機構の詳細を解明し、この過程をモデル化した論文を世界に向けて発信する。一方で、類似のarcRNA作動エレメントが、他のarcRNA候補分子にも存在するかどうかを、変異体解析とバイオインフォマティクスを駆使して解析を行う。さらに前年度に確立した難抽出性を指標とした次世代シーケンスによるarcRNA探索法を駆使して、様々なストレス細胞、疾患細胞において新たなarcRNA候補を同定する。最終的に、これらの成果を統合して、arcRNAの作動エレメントと作動原理を基盤とした独立したarcRNAタクソンを確立する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件) 学会発表 (31件) (うち国際学会 12件、 招待講演 11件) 備考 (2件)
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