研究領域 | ノンコーディングRNAネオタクソノミ |
研究課題/領域番号 |
26113003
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 勉 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20292782)
|
研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
|
キーワード | RNA修飾 |
研究実績の概要 |
本研究ではRNA修飾や末端構造に由来するRNAの質的な情報に焦点をあて、RNAの化学特性に基づいたncRNAケミカルタクソノミを確立することを目的とする。 本年度は、ウニのミトコンドリアからtRNALysを単離精製し質量分析法により解析したところ、アンチコドンの3’側の隣接部位に新規の修飾塩基であるヒドロキシ-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン(ht6A)を見い出した。リボソームのAサイトにおけるtRNAのコドン認識能を評価したところ、この修飾塩基はAAAコドンへの結合能を抑制する役割のあることが判明した。以上の結果から,棘皮動物のミトコンドリアにおいてtRNALysが新たな修飾塩基を獲得することによりAAAコドンの暗号変化に寄与したと考えられた(Nagao et al., Nat Struct Mol Biol, 2017)。 私たちは以前、ヒトのミトコンドリアtRNAからタウリンを含んだ修飾ウリジン(タウリン修飾)を発見し、ミトコンドリア脳筋症の原因点変異を有するtRNAには、タウリン修飾が欠損していることを見出した。本年度は、MTO1とGTPBP3がタウリンとメチレンTHFを基質にタウリン修飾を生合成することを示した。GTPBP3に変異のある患者細胞では、タウリン修飾の著しい低下を観測した。さらに、タウリン欠乏食を与え飼育したネコとヒラメの臓器からミトコンドリアtRNAを単離し解析したところ、タウリン修飾率が優位に低下していた。さらにHeLa細胞の培地から、タウリンを欠乏させたところ、タウリン修飾率が顕著に低下した。興味深いことにタウリン修飾の低下とともに、タウリンの代わりにグリシンが導入されたcmnm5U修飾が生じることを見出した。この結果はRNA修飾の化学構造が生理的な環境下で変化しうることを示した初めての例となった(Asano et al., 2018)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
RNA修飾の解析と生合成機構の研究に関しては、予想以上の成果が得られたと自己評価している。ウニのミトコンドリアtRNAから発見された新規修飾であるht6A(Natao et al., 2017)は、生物が遺伝暗号を変化する際に新たなtRNA修飾を獲得する機構があることが証明し、RNA修飾が担う新しい概念を提供した。 ミトコンドリアtRNAのタウリン修飾の生合成とタウリン欠乏症との関係については、 細胞がRNA修飾の基質であるメタボライドの濃度を感知することで、修飾率およびその化学構造までもがダイナミックに変動する現象を捉えた(Asano et al., 2018)。これまでtRNA修飾は静的で安定であると考えられてきたが、この研究により、tRNA修飾は従来考えられてきたよりもダイナミックに変動しうるものであるという新しい概念を提供した。この研究は、Nucleic Acid Research誌の上位1-2%の論文に与えられるBreakthough articleに認定された。 バクテリアリボソームRNAに含まれる5-ヒドロキシシチジン(ho5C)修飾を形成する新規修飾酵素RlhAを同定した(Kimura et al., 2017)。RlhAはPeptidase_U32ドメインを持ち、従来知られている水酸化酵素とは異なるファミリーに属し、プレフェン酸を補因子として用いる全く新しい酵素であることが判明し、同じPeptidase_U32ドメインを持つパラログも水酸化酵素である可能性を示した。
|
今後の研究の推進方策 |
化学特性に基づくRNAの作動エレメントを見出すために、個々のRNA分子に含まれるRNA修飾部位を同定する。私たちはこれまでに、複数の新規RNA修飾をncRNA,rRNA,tRNAから発見しており、今後も引き続き、新しいRNA修飾の探索と化学構造の決定、生合成機構の解析、機能解析を行う。往復循環クロマトグラフィー法(RCC)に関しては、プローブの新しいデザインや精製プロトコルの改良を行うことで、より特異性が高く、収量の高いRNA精製法を確立する。また、RNAマススペクトロメトリー(RNA-MS)によるRNA修飾の高感度解析のための技術体系を構築する。
|