計画研究
Neat1は核内構造体パラスペックルの骨格となっている長鎖ノンコーディングRNAであり、長さが約3 kbのNeat1_1と、20 kbのNeat1_2の二つのアイソフォームが存在する。どちらのアイソフォームもパラスペックルに局在するものの、この構造体の骨格としての機能を持つのはNeat1_2のみであり、Neat1_1のみを発現する細胞ではパラスペックル形成が見られないことがわかっている。多くの培養細胞はNeat1_1とNea1_2の両方のアイソフォームを発現しており恒常的にパラスペックル形成が見られるが、マウスの生体組織の多くは、Neat1_2はごく少量しか発現しておらず、Neat1_1のみが発現しているため、パラスペックルは形成されない。従って、マウス組織においてはNeat1_1とNeat1_2のアイソフォームの切り替えを行うことでパラスペックル形成を制御していると考えられる。このアイソフォーム切り替えの生理的な意義を明らかにするために、Neat1_1の生成に必要な選択的poly-A付加シグナルを欠失するマウス個体を、CRISPR-Cas9のシステムを用いて作製した。その結果、このマウスではコントロールの野生型マウスに比べてNeat1_2の発現が著しく上昇し、肝臓、唾液腺、小腸をはじめとする各組織でパラスペックルの過剰形成が起きていることが明らかとなった。Neat1のKOマウスのメスは妊孕性の低下という表現型を示すものの、オス個体は顕著な表現型を示さない。Neat1は特殊な環境下で機能を発揮するという予想のもと、Neat1のKOマウス及び野生型マウスに高脂肪食を与え、体重の変化を調べた。その結果、Neat1 KOマウスではWTマウスに比べ摂餌量が低下し、体重も増えにくいことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
長鎖ノンコーディングRNAの分子機能を明らかにする上で、単純にその遺伝子全体を欠失した時の表現型解析でなく、タンパク質の機能解析で行われているようなドメイン解析を行うことが、今後重要な課題であると考えられている。今回、我々は、Neat1のアイソフォームの発現変化が個体レベルでどのような影響を与えるかを調べることのできるモデルマウスの作製に成功した。来年度以降、このノックアウトマウスの表現型解析を行うことで、Neat1のアイソフォームの違い、Neat1_2特異的な領域の生理機能を明らかにすることができると考えられる。また、Neat1のノックアウトマウスに高脂肪食を与えることで、野生型マウスに比べて体重が増えにくくなることが明らかとなりつつある。これまで、Neat1は特定の環境下で生理機能を発揮することが示唆されていたが、具体的にどのような環境下で機能を発揮するのかについての知見はごく限られていた。今回、高脂肪食摂取時にのみ見られる表現型が明らかになったことで、Neat1の分子機能を解析するための大きな手がかりを得ることができた。
これまでに作成したNeat1_1ポリA付加シグナル欠損マウスでは、恒常的なNeat1_2の発現が誘導され、結果としてパラスペックル過剰形成が起きていることが分かっている。さらに、予備的な観察によれば、通常はNeat1_1のみを発現している唾液腺の大きさが、顕著に増大することが明らかとなってきた。そこで、異所的なパラスペックル形成によって唾液腺の細胞で引き起こされる遺伝子発現の変化を解析するほか、パラスペックル・Neat1が相互作用する分子を同定することによって、この表現型を生み出す分子メカニズムを明らかにする。また、Neat1のノックアウトマウスで見られた高脂肪食摂取時における表現型を生み出すメカニズムを明らかにするために、脂肪代謝に関わる脂肪組織、肝臓などから得られたRNAを用いてトランスクリプトーム解析を行う。
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