計画研究
今年度も引き続き代表的なarcRNAの一つであるNeat1のノックアウトマウスの表現型解析を行った。これまで、Neat1のノックアウトマウスはメス個体の約半分において妊孕性が低下するという表現型が見られていたが、どのような条件で妊孕性が低下するのかについては明らかになっておらず、表現型を引き起こすメカニズムの解明には困難をきたしていた。そこで、実験的にコントロールできる条件において表現型を観察できる実験系を探索したところ、高脂肪食を摂取させたときに採餌量の低下が起こり、体重の増加が野生型に比べ少ないことが明らかとなった。また、栄養状態によってNeat1の発現が変化するかどうかを調べるために24時間のfasting並びにre-feedingの影響を調べたところ、それぞれの条件でNeat1の発現が大きく変動することがわかった。さらに、予備的な観察では、グルコース負荷をかけたときの血中グルコース濃度の変化に異常が見られた。これらの結果から、パラスペックルは特定の環境下でグルコース代謝の変動を制御する可能性が示唆された。また、昨年度までの研究で、パラスペックルを過形成するNeat1 polyAシグナルノックアウトマウス(パラスペックルを形成しない短いアイソフォームNeat1_1を強制的に作らせないようにすることで、パラスペックル形成能を持つNeat1_2を過剰に発現するようにしたマウス)において唾液腺の形態形成に異常が見らることが明らかとなっていたが、原因不明ながらこのマウスの繁殖が一時的に非常に悪くなり、十分な数の変異マウスと野生型マウスを得られることができなかった。そのため、予定していたRNAseq解析等は行うことができなかったが、飼育方法や繁殖方法を見直し、特に妊娠時に環境エンリッチメントを飼育ケージに入れることで、繁殖効率を大きく改善することができた。
2: おおむね順調に進展している
パラスペックル過形成マウスにおける唾液腺での表現型解析については十分な数のマウス変異体が得られなかったため予定していたRNAseq解析を行うことができなかったものの、高脂肪食摂取時におけるNeat1ノックアウトマウスの新たな表現型を見つけることができた。今後は実験的にコントロールできる条件下で誘導できる表現型解析を行うことができるようになる。これまでNeat1の解析において決定的に困難であったのは、表現型が出るための環境を実験的に制御することができないということであった。高脂肪食によって表現型を解析するための諸条件を確立できたことは、この状況を打破する、大変有意義なブレイクスルーであった。
Neat1のノックアウトマウスに高脂肪食を摂取させたときの表現型について、グルコース代謝や脂肪代謝に注目してより詳細な解析を行う。また、パラスペックル過形成するマウスについても、引き続き組織学的な解析及び遺伝子発現解析の両面から解析を進めてゆく。
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