計画研究
大規模なトランスクリプトーム解析により、ヒトでは約9,600, マウスでは5,500, ショウジョウバエでは5,000個以上の長鎖ncRNA (long noncoding RNA: lncRNA)が同定されているが、これらのlncRNAのほとんどは機能未知のRNA分子であり、その体系的な理解は全く進んでいない。特に、多数報告されている神経系特異的なlncRNAについては、神経活動と密接な関係にある可能性が指摘されているものの、ほとんどは解析されないまま手つかずの状態にある。本研究の目的は、中枢神経系に発現するlncRNAの詳細な解析を行うことで、中枢神経系で機能するRNAの「作動エレメント」を同定し、高次神経機能を制御するncRNAタクソンを確立することにある。本研究では、LOL RNAをモデル系として、中枢神経において機能するlncRNAの「作動エレメント」を同定し、その情報をもとに他の神経系特異的lncRNAの解析を進める。また、LOLと物理的に相互作用するタンパク質因子を同定し、その作動装置の構成要素および形成機構とその機能を明らかにする。現在までに、ショウジョウバエLobe-less RNA(LOL RNA)をモデルとして神経系におけるlncRNAの解析を進めており、lncRNAが神経回路形成において重要な役割を果たしていること、Lobe-less RNAがPolycomb複合体の構成因子を強い遺伝学的作用を示すこと、2,000個以上の多数の遺伝子について発現制御に関与していることを明らかにしている。
2: おおむね順調に進展している
今年度は LOL RNAと相互作用する遺伝的要因の改名を中心に研究を行ったが、Polycom遺伝子群に含まれる遺伝子であるPolycombおよびPosterior Sex combとの相互作用を明らかにしている。nocoding RNAとクロマチン関連因子との相互作用は、これまでに免疫沈降法による結合や、免疫組織化学的手法による核内局在の一致を指標に示唆されてきたが、今回我々は、突然変異を用いた遺伝学的手法により、機能的相互作用を見出したという点で、その意義は大きい。また、これを裏付けるように、lol 変異により多くの遺伝子の発現が影響を受けることを突き止めた。これらの研究成果は、noncoding RNAが中枢神経系において重要な役割を果たしていることを初めて明らかにしたものであることから、計画当初に気としていた目的は果たされつつあると判断できる。
引き続き研究計画に沿って LOL RNA の機能解析をすすめる。特に、機能的な相互作用を示す因子について、生化学的な相互作用があるかどうかを慎重に検討する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件)
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Biochim. Biophys. Acta.
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