研究領域 | ノンコーディングRNAネオタクソノミ |
研究課題/領域番号 |
26113007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
泊 幸秀 東京大学, 定量生命科学研究所, 教授 (90447368)
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研究分担者 |
多田隈 尚史 大阪大学, 蛋白質研究所, 助教 (10339707)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 生化学 / 生物物理学 / RNA / タンパク質 |
研究実績の概要 |
ウイルス由来のRNAサイレンシングサプレッサーCrPV-1Aが、RNA干渉経路のどの段階をどの様に阻害するのか、という未解明の謎に対して、前年度までに確立したショウジョウバエAgo2-RISCによる標的切断反応の一分子イメージング系を活用し、生化学と一分子解析の両面から詳細な解析を行った。その結果、CrPV-1Aは、Ago2-RISCが標的mRNAを認識する際の一番最初の段階、すなわち、siRNAガイド鎖の「シード領域」と呼ばれる2から8塩基目の領域が、標的mRNAと塩基対を形成する段階を特異的に阻害していることが示唆された。CrPV-1Aはおそらく、Ago2-RISCが標的を認識するクレフトに直接結合し「ふた」をしているものと予想される。本研究成果は、ウイルス由来のRNAサイレンシングサプレッサーによる多様なRNA干渉阻害様式を理解する上で、生化学と生物物理学を組み合わせることが非常に強力なツールとなることを示すものである。 また、タンパク質のダイナミックな構造変化を一分子FRETを用いて追跡するために、非天然アミノ酸を介して任意の場所に特異的に蛍光色素を導入する方法を確立し、ショウジョウバエAgo2がsiRNA二本鎖を取り込んでRISCを形成するまでの過程における分子ダイナミクスを一分子レベルでとらえるための基盤が整った。 さらに、これまでモデルとしてきたショウジョウバエだけではなく、ヒトのRNA干渉複合体であるAgo2-RISCの試験管内再構成系の確立にも成功した。これにより、ヒトAgo2のRISC形成もショウジョウバエ同様、Hsp40, Hsp70, Hop, Hsp90, p23という5つの分子シャペロンを必要とすることが明らかになったと同時に、RISC形成におけるDicerおよびそのパートナータンパク質の必要性はヒトとショウジョウバエで大きくことなることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
RNAだけではなく、タンパク質の任意の位置に特異的に蛍光色素を導入可能な系の最適化に成功したことは、今後、Argonauteをはじめとする様々なタンパク質のダイナミックな構造変化を一分子レベルでリアルタイム観察する上で、大きなブレークスルーであると考えられる。また、ヒトにおけるRNA干渉の試験管内再構成系を確立できたことにより、基礎的な分子メカニズムを軸足におきつつも、出口も見据えた研究推進も可能になることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立した、1)小分子RNAまたは標的RNAの蛍光標識 2)Haloなどタグを介したタンパク質末端への蛍光標識 2)非天然アミノ酸を介したタンパク質の任意の場所への特異的な蛍光標識 を組み合わせることによって、未だ謎に包まれているRISC形成中のAgoタンパク質の分子ダイナミクスについて、一分子レベルの詳細な解析を行う。特に、RISC形成になぜシャペロン群が必要なのか、シャペロン群はAgoタンパク質に対して何をしているのか、という大きな問いに答えたい。
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