前年度までに確立した、非天然アミノ酸を介したタンパク質の任意の位置への特異的な蛍光標識の導入法を活用し、ショウジョウバエAgo2タンパク質を2色の異なる蛍光色素でラベルすることによって、2つの色素間の距離を一分子FRETを用いて計測した。その結果、ショウジョウバエのAgo2は、単体で「空」の状態では閉じた形をしているものの、Hsp70/Hsp90を中心とするシャペロンが作用すると、その形が大きく開いた状態に変化するということが明らかになった。さらに、シャペロンによって大きく開かれたAgo2に、siRNAが取り込まれると、やや開いた形になって安定するということが示された。すなわち、アルゴノートが小さなRNAと機能的な複合体を作るためには、まずシャペロンの力を借りて一旦大きく開いた形になり、小さなRNAが入るためのスペースを作る必要がある、と考えられる。 Hsp70/90シャペロンシステムは複数のタンパク質からなり、前半ではたらくHsp70システムと後半ではたらくHsp90システムに分けられる。ショウジョウバエAgo2の挙動に着目すると、前半ではたらくHsp70システムだけでは、アルゴノートを一時的に開いた形にすることができるものの、すぐに閉じた形に戻ってしまう一方で、後半ではたらくHsp90システムは一時的に開かれた形を安定化し持続させる機能があることが明らかとなった。このように、Hsp70システムとHsp90システムは、共にアルゴノートを開かせる方向にはたらくものの、その作用メカニズムには大きな違いがあることが見いだされた。 また、空のアルゴノートが生体内で選択的に分解される機構を明らかにし、その責任因子として同定されたE3ユビキチンリガーゼに「イルカ」と名付けた。
|