研究領域 | 細胞競合:細胞社会を支える適者生存システム |
研究課題/領域番号 |
26114002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井垣 達吏 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00467648)
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研究分担者 |
高松 敦子 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20322670)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞競合 / 遺伝学 / ショウジョウバエ / 細胞極性 / 細胞死 / 細胞間コミュニケーション |
研究実績の概要 |
細胞競合とは、近接する同種の細胞間で適応度のより高い細胞 (勝者) が低い細胞 (敗者) を積極的に排除する現象である。本研究では、ショウジョウバエ上皮細胞競合モデルを用いて、細胞競合の制御に関わる因子群を網羅的に同定し、その役割と分子機序を遺伝学的に明らかにすることを目的とする。これまでに、約9,000系統のショウジョウバエ突然変異系統を樹立してスクリーニングを行い、近接する極性崩壊細胞(細胞競合の敗者)を排除することができないelimination-defective (eld) 変異系統8系統を単離することに成功した。この中でも特に強いeld表現型を示すeld-4系統の責任遺伝子として細胞表面リガンドSasを同定し、またSasの受容体として機能する受容体型チロシンフォスファターゼPTP10Dをin vivo RNAiスクリーニングにより同定した。さらに、SasおよびPTP10Dタンパク質が細胞競合の境界面においてそれぞれ勝者細胞と敗者細胞のラテラル側に蓄積することを見いだした。平成28年度は、このSas-PTP10Dシステムが細胞競合の敗者となる極性崩壊細胞の排除を駆動するメカニズムを明らかにした。すなわち、正常細胞との接触により活性化されたPTP10Dシグナルは極性崩壊細胞内でEGFRシグナルを抑制し、JNKシグナル依存的な細胞死および細胞のextrusionを促進することがわかった。PTP10Dをノックダウンした極性崩壊細胞ではEGFRシグナルが亢進し、これがJNKシグナルと協調することで細胞内F-actinの集積を介してYorkie(Hippo経路の標的因子)が活性化し、その結果極性崩壊細胞は排除を免れるだけでなく過剰に増殖して腫瘍を形成することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ショウジョウバエ上皮細胞競合モデルを用いて細胞競合制御因子を網羅的に探索・同定し、その細胞競合における役割と動作機序を明らかにしていくものである。これまでに、極性崩壊細胞を細胞競合の敗者として排除するのに必要な勝者細胞側の遺伝子として細胞表面リガンドSasを同定するとともに、その受容体タンパク質PTP10Dを明らかにした。また、上皮細胞競合時におけるSasおよびPTP10Dの局在変化やそれによるシグナル活性変化、さらにはそれによる細胞排除の駆動メカニズムまでを明らかにすることができた。以上の経過から、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、正常発生や恒常性維持、創傷治癒、組織再生などの過程におけるSas-PTP10Dの役割を解析することで、この細胞競合現象の生理的意義を明らかにしていく。またこれと並行して、別のeld系統として単離されたeld-5について、その細胞競合制御機構の遺伝学的解析を進める。 一方、生態系における生物個体群の競合モデルとして広く用いられているロトカ・ヴォルテラモデルを応用し、細胞競合の数理モデル解析を進める。これまでに、リボソームタンパク質遺伝子変異(Minute変異)による細胞競合時の適応度を決定する数学的因子を導出するとともに、Minute競合とは異なる競合プロセスを有するエンドサイトーシス破綻(Rab5変異)による細胞競合の数理解析を進めてきた。今後は、さらに細胞極性崩壊(scrib変異)による細胞競合のダイナミクス解析と数理解析を進め、その過程を記述する数理モデルの構築を試みる。
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