計画研究
本研究では、ショウジョウバエ蛹期にみられる腹部表皮細胞の入れ替わりを細胞競合の一例と捉え、遺伝学的スクリーニングを用いることで細胞間に介在する非自立的細胞死を誘導する因子の同定を目指している。組織特異的に発現するGAL4/UASシステムとRNAi系統を用いて、成虫細胞(勝者)側で特異的に遺伝子をノックダウンし、遺伝学的スクリーニングを行った。細胞死が阻害された場合、幼虫細胞は成虫の腹部に残存し、成虫表皮の形態異常を引き起こす。この形態異常を指標に644遺伝子が解析され58遺伝子が絞り込まれた。その中でも血管内皮細胞増殖因子のショウジョウバエホモログであるPvf1を、候補遺伝子として解析を行った。成虫細胞でのPvf1 RNAiによって幼虫細胞の細胞死が細胞非自律的に抑制されることを確認した。また、ショウジョウバエPvf1の受容体として知られるPvrのRNAiによって幼虫細胞の細胞死が抑制されたことから、本細胞非自律的な細胞死はPvf1/Pvrシグナルを介していることが示唆された。Pvf1の時空間的発現・局在パターンを解析するために、Pvf1::venusノックインショウジョウバエを、CRISPR/Cas9システムを使って作製中である。今後さらなる解析を行っていく。
2: おおむね順調に進展している
研究計画実施予定であったRNAi系統を用いた遺伝学的スクリーニングについては、確認実験を当初の予定より早く完了することが出来た。このスクリーニングにより、成虫細胞側で産生される細胞競合制御因子として複数の候補遺伝子を同定し、トランスジェニックやノックイン、ノックアウトの作製にとりかかり解析を進行している。一方で、同時進行していたトランスクリプトーム解析を用いた生化学的スクリーニングの進行が遅れている。その理由として、解析に用いるサンプル調整が難航していることが挙げられる。1回の実験につきGFP陽性細胞は1000個程度回収できたが、トランスクリプトーム解析を行うmRNA量には遠く及ばなかった。別の研究課題で行っている翅成虫原基を用いた実験では、1回の実験につき、3万-4万個の細胞が回収できたため、十分なmRNA量が抽出され、既にトランスクリプトーム解析を完了している。サンプルとなる成虫表皮前駆細胞集団の細胞数の少なさと、少ない細胞からのmRNA抽出に難航したため、平成26年度中に委託する予定だったトランスクリプトーム解析を次年度に繰越して研究を行う予定である。
RNAi系統を用いたスクリーニングによって同定された候補遺伝子の解析は引き続き行う。一方で、トランスクリプトームを用いた解析については、サンプル調整法を工夫することで、滞りなく研究を遂行していく。サンプルとなる成虫表皮前駆細胞集団はもともと翅成虫原基に比べて細胞数も少なく、サンプルを調整する解剖手法にもスキルが必要である。我々はすでに複数回の検討を行っており、サンプル調整のスキル上達に従って、毎回の取得細胞数も上昇している。また、少ない細胞から精度の高いmRNAをロスなく抽出するために、これまで使用していたTrizolからPicoPure; RNA Isolation Kitに変更し、回収率の上昇を見込んでいる。以上のような対応策をとっているが、トランスクリプトーム解析に使用出来るmRNA量はまだ回収出来ておらず、サンプル抽出のさらなるスキルアップが必須である。また、トランスクリプトーム解析のプロトコルについても、最近では極微量のmRNAを対象にするものが出来てきたので、そちらを利用することも考えている。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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