計画研究
本研究「Hippoシグナル経路による細胞競合機構とその破綻病態」では、(1) 哺乳類細胞競合現象の可視化、(2) 勝者細胞と敗者細胞の差を手掛かりにした「適応度」差の感知機構や競合後の細胞排除機構解析、(3)細胞競合の個体における生理的役割と破綻病態解明、の3つのアプローチによって、細胞競合現象を解明する。ショウジョウバエにおいてはHippo経路分子が細胞競合の最も重要な制御分子とされつつあるが、哺乳類の細胞競合に関わる遺伝子群はいまだほとんど不明である。また成体マウスの肝臓に若いマウス由来の肝細胞を移植した際、肝臓のサイズは一定のまま若い移植肝細胞が宿主の古い肝細胞を競合的に排除して組織内の占有領域を順次拡大していく現象は、“哺乳動物組織における細胞競合”の1例として知られているが、その分子機構は不明である。これまで研究代表者は、Hippo経路の構成分子のノックアウト(KO)マウスやコンディショナルKOマウスを数多く作製し、また研究分担者はマウス肝臓における細胞競合モデルを独自に構築することに成功し、共同して肝臓が細胞競合モデルとして重要であることを見出している。本研究ではこれら申請者が、様々なアプローチで細胞競合現象を研究する世界的な研究者が集まる当該領域に参画し、有機的かつ緊密に連携しつつ、Hippoシグナル経路による哺乳類細胞競合機構とその破綻病態を研究する。これによって、哺乳類組織構築における細胞競合の分子機構、細胞適応度の解明、細胞競合による破綻病態の解明も可能となり、生命科学の新たな次元の創出が期待される。また、本研究の成果は、細胞競合という新しい生物学的コンセプトを起点として広範な生命科学領域の向上と強化につながるとともに、がんをはじめとするヒト難治性疾患の病態解明と治療戦略の開拓に貢献することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
<これまでの研究成果>In vitroの通常培養では、これまでYAP過剰活性化細胞は、隣接した周辺正常細胞に対して敗者となり突出誘導される事、RASやSRC活性化細胞を周辺細胞に用いると突出誘導されないことを報告した(Scientific Reports 2016)。さらにin vivoで肝臓での細胞競合の可視化を可能とし、エタノールなどで障害をうけた肝細胞においてはYAP過剰活性化細胞は敗者になるのに対し、障害のない肝細胞では勝者となることを見出した(論文投稿中)。これらYAP過剰発活性化細胞が、条件によって勝者と敗者が逆転する現象はin vitroでもさらに認められ、YAP過剰活性化細胞は、(1)通常培養では培養皿底面への接着力が減弱して、野生型に比し敗者になること、(2)ペトリ皿やpHEMAコート皿などの細胞浮遊培養条件下での単独培養では増殖が高く、野生型との混合培養時にはさらにより増殖力が強くなり勝者になることを見出した。このように細胞競合様現象の勝敗の一因は、細胞接着の状態変化に依存する可能性が高いこと、通常培養では接着性が高い細胞同士が凝集しようとするために、二次的に接着性が弱い細胞が押し出され排除される可能性があることも示唆された。以上のように進捗状況はおおむね順調に進展している。
平成29年度に我々は、YAP過剰活性化細胞で遺伝子発現が減弱する細胞接着関連因子をいくつかマイクロアレイで見出したために、その発現変化機構を解明する。またこれら発現減弱した細胞接着関連因子を1つ1つ発現回復させることにより、細胞競合様現象の回復が起きるのかをin vitroで検討して、勝者敗者を決定する遺伝子を特定する。またこれらによって特定された細胞接着関連遺伝子が、細胞競合様現象に関与することを皮膚移植やキメラ胚を用いたin vivo解析でも解明する。以上の接着関連遺伝子を介したHippo経路と細胞競合様現象の成果をまとめて論文を投稿する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 3件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 4件) 図書 (12件) 備考 (5件)
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